背番号

スポンサーリンク

数年前の夏、高校野球の地方大会を観戦したときのことだ。

友人の弟が地元のチームでピッチャーをしていて、応援がてら球場まで足を運んだ。観客席は試合開始前から賑やかで、家族連れや地元の人々がたくさん詰めかけていた。私は友人と二人でスタンドの一番後ろに座り、試合が始まるのを待っていた。

「今年はうちの高校、結構強いらしいよ」と友人が言う。「エースの吉田が調子いいんだってさ。」

試合が始まり、ピッチャーマウンドに立った吉田は、噂通り堂々としていた。背番号1が眩しく、投げる球も切れていた。スタンドは沸き、応援団の声がどんどん大きくなる。けれども私は、なぜか違和感を覚えていた。

気が付いたのは、試合が中盤に差し掛かった頃だ。スコアボードに目を向けると、吉田の名前の横に表示された背番号が「10」だった。

「おかしいな」と思った。確かにマウンドの吉田のユニフォームには「1」が付いている。私は隣の友人に尋ねた。

「吉田くんの背番号、10じゃないの?」

友人は怪訝そうな顔をした。「何言ってるんだよ。エースなんだから、1に決まってるだろ。」

私は再びスコアボードを見た。やはり「10」だ。他の観客に聞いてみたが、みんな「1だ」と言う。次第に自分の感覚が信じられなくなってきた。

その試合は、吉田の好投で見事に勝利した。友人とともに帰路につく途中で、気になってスマホで地元チームの選手紹介を調べた。吉田の名前を見つけ、確認すると、そこには背番号「10」と書かれていた。

翌日、友人からメッセージが届いた。

「昨日の試合のこと、なんか変なこと思い出した。吉田の兄さん、知ってる?3年前に亡くなったんだけど、あの時もエースで背番号1だったらしい。」

背筋が凍った。もしかして、私が見たのは兄の影だったのか?いや、そんな非現実的なことはない。だけど、吉田が投げるたびに、彼の背中が二重に見えた気がしてならなかった。

コメント

タイトルとURLをコピーしました