会社を辞めてから、時間を持て余すようになった。家にいることが増え、気分転換に掃除をするのが日課になった。今日は古い書類や雑誌を片付けることにした。
押し入れの奥から出てきた段ボールには、学生時代のノートや卒業アルバムが詰まっていた。懐かしい気持ちでページをめくっていると、一枚の紙が床に落ちた。手書きの文字がびっしりと書き込まれた、薄いコピー用紙だ。
そこには、見覚えのない名前が並んでいた。「鈴木英夫」「田中芳美」「斉藤明」……特に目立つところもない、どこにでもありそうな名前だ。ただ、不思議だったのは、その一つひとつに赤い丸が付けられていたことだ。
裏返してみると、さらに名前が続いている。そしてその中に、一つだけ見覚えのある名前を見つけた。「加藤健一」。私の大学時代の友人だった。
加藤の名前にも赤い丸が付いている。嫌な予感がして、急いでスマホで彼のことを検索した。数年前に亡くなっていた。交通事故だという。
その夜、どうしても眠れなかった。段ボールの中をもう一度確認しようとしたが、気が進まない。あの紙を見つけた瞬間から、胸に重い圧迫感があった。だが、気になって仕方がない。
再び段ボールを開け、中身を漁る。新たに見つけた紙には、さらに別の名前が書かれていた。そこには、自分の名前も含まれていた。
自分の名前の横には、赤い丸がなかった。だが、ペンで書き足せるように、少しだけスペースが空いていた。
翌日、私はその紙を持って警察に行った。自分の持ち物ではないこと、どうして家にあったのかわからないことを説明した。だが、紙を見せた途端、若い警察官の顔が曇った。
「……この名前、知ってますよ」
そう言って彼が指差した名前は、先日失踪した女性のものだった。そして、彼女の名前の横には、赤い丸が付いていた。
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