中学生の頃、私は毎日同じ道を通って学校に通っていた。家から学校までは20分ほどの距離で、田んぼや細い道を抜ける静かな通学路だった。そこにある一本の細い路地――普段は何の変哲もない道だったのに、ある日を境に、奇妙な出来事が起き始めた。
その日は雨上がりの朝で、少し早めに家を出た。いつものようにその細い路地に差し掛かると、何かが違うことに気づいた。道の先がぼんやりと霧に覆われているのだ。
「こんなに濃い霧、珍しいな」
少し不安を感じながらも、遅刻したくない一心で霧の中に足を踏み入れた。しかし、進めば進むほど道が妙に長く感じられる。普段なら数分で抜けられるはずなのに、何分歩いても出口が見えない。
足元を見ると、濡れた土の感触が無くなり、いつの間にか乾いた砂利道に変わっていることに気づいた。その瞬間、背中に寒気が走った。
「ここ、いつもの道じゃない……」
恐ろしくなって引き返そうと振り向いたが、背後は真っ白な霧に覆われていて、自分がどの方向から来たのかも分からなくなっていた。霧の中で「ザッ、ザッ」という足音が近づいてくる。
「誰かいるのか?」
声をかけたが、応答はない。ただ、足音はどんどん近づいてくる。振り返る勇気もなく、その場で硬直していると、足音は突然止まった。
そして耳元で、低い声が囁いた。
「道を間違えたね」
目の前が真っ暗になり、気づいた時には学校の近くの通りに立っていた。遅刻ギリギリの時間だったが、さっきまでの出来事が夢だったのか現実だったのか、分からない。
ただ、その日を境に、その細い路地を通ろうとすると、なぜか別の道に迷い込んでしまう。何度試しても、家から学校へ直行できるはずのその道だけが、まるで存在しないかのように消えてしまうのだ。
いまではそれがどこにあったかすら、思い出せない。
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