白い自販機

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あれは、夏の終わりのことだった。大学のサークル合宿で山奥のペンションに泊まった帰り道、バスがトラブルで動かなくなった。修理には時間がかかると言われ、近くの田舎道を散策することになった。

一本道を歩いていると、少し先に奇妙な自動販売機が見えた。真っ白で、どのメーカーのロゴもない。ただ、ライトがぼんやりと光っている。自販機には「ジュース 100円」とだけ書かれていた。

「こんなところに自販機あるのかよ!」

サークル仲間が面白がり、財布を取り出して100円を入れた。ボタンを押すと、機械音がして缶が一本出てきた。缶はシンプルなデザインで、何の銘柄も書かれていない。

「なんだこれ、ただの水か?」

彼は笑いながら缶を開け、飲み始めた。その時、彼の顔が一瞬、硬直した。

「おい……これ、変な味がする」

それでも気にせず飲み干し、「普通の水だった」と言って缶を捨てた。だが、その後も彼は何となく様子がおかしかった。

ペンションに戻ると、その友人は突然体調を崩し、夜になると高熱を出して寝込んでしまった。救急車を呼ぶべきか迷っていると、彼が突然目を覚まし、言った。

「……自販機の前に、誰かいた」

驚いて詳しく聞くと、自販機の奥に立っていた「白い影」を見たという。影はずっとこちらを見つめていたが、仲間には言えなかったらしい。

次の日、彼は元気になったが、妙に落ち着きがなく、自販機の話を聞くたびに目を逸らすようになった。興味を持った別のサークルメンバーが、「もう一回行ってみよう」と提案し、自販機のあった場所に向かうことにした。

しかし、昨日見た自販機はどこにもなかった。あれほど目立つ場所にあったはずなのに、道にはただの空き地が広がっているだけだった。

その後、サークルの中で妙な噂が広がった。

「あの自販機、願いを叶える代わりに何かを奪うらしい」

友人がその話を聞いて以来、夜中になると「白い影が部屋に立っている気がする」と怯えるようになった。

そして、合宿から一週間後、彼は失踪した。何も言わず、荷物を全て残したまま。

あの自販機は、今でもどこかの道端に現れるのだろうか。

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