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あれは、大学の冬休みのことだった。親の実家で数日過ごすことになり、古びた家の二階にある客間を使わせてもらった。部屋の隅には高さほどもある大きな姿見が置かれていた。装飾が施された木枠が古めかしく、どこか不気味な雰囲気を醸し出していた。

夜、布団に入りながらその鏡を見ていると、微かに自分の姿が揺れているように見えた。風でも入ってきたのかと思ったが、窓はしっかり閉まっている。気のせいだと自分に言い聞かせて目を閉じた。

深夜、何かに目を覚まされた。部屋は静まり返っているが、妙な視線を感じる。恐る恐る鏡を見ると、自分がそこに映っているはずなのに、顔が少し違う。

眉の角度が微妙に変わり、口元が微かに笑っている。

「疲れてるんだろう」と再び布団に潜り込むが、鏡に背を向けるとどうしても意識がそちらに向いてしまう。そしてまた目を開けると、今度は鏡の中の自分が一歩こちらに近づいている。

翌朝、祖母にその鏡について尋ねた。

「ああ、それはね、昔からこの家にあるものよ。でも、あんまり夜中にじっと見ない方がいいわね」

理由を聞いても教えてくれず、何かを隠しているような様子だった。それが逆に私の不安を煽った。

その晩、どうしても気になって、懐中電灯を持ちながら鏡をじっと見つめた。すると、鏡の中に微かな影が動くのが見えた。

自分ではない。鏡の中の背景とも違う、黒い影だ。

翌朝、私はその鏡を部屋の隅に倒して隠そうとしたが、異常なほど重く、びくともしなかった。それ以来、夜になると鏡を布で覆っていたが、布の向こうからかすかな音が聞こえる。

今でも、家に帰ると、何かが私の背後に映っているような感覚に襲われる。そして、どこかに置いてきたはずの姿見が、自分の寝室に戻っている夢を見ることが増えた。

それが夢か現実か、もう分からなくなっている。

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