冷たい砂の音

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学生時代、友人たちと海辺のキャンプに出かけた。夏の終わりで、観光客もほとんどいない静かな海だった。日が沈むと潮風が冷たく、波の音だけが響いていた。

夜、焚き火を囲みながら話していると、一人の友人が妙な話を始めた。

「この海岸、昔誰かが行方不明になったらしいよ」

聞けば、ずいぶん昔にこの付近で漁師が遭難し、誰もその姿を見つけられなかったという。それ以来、夜になると砂浜で「冷たい砂の音」が聞こえるらしい。

「砂の音?それ、波の音の聞き間違いじゃないの?」

誰かが笑いながらそう言うと、話はそれで終わった。私はその時、特に気にしていなかった。

深夜、みんながテントで寝静まった頃、私はどうにも寝付けず外に出た。冷たい風が吹く中、静かな砂浜に立っていると、確かに波の音とは違う、ザラザラという微かな音が聞こえた。

「……風のせいか?」

そう思いながら音の方を見てみると、暗闇の中に人影のようなものが見えた。距離があり、よく見えないが、何かが砂をかき集めているように見える。

怖くなってテントに戻ろうとした瞬間、足元で冷たい感触がした。見ると、砂が自分の足を覆い始めていた。

慌てて砂を払いのけたが、その瞬間、足元から「ザザッ」という音が響き、砂の中に引っ張られる感覚がした。

必死で逃げ出し、テントに駆け込むと、他の友人たちも目を覚ました。恐怖で何が起きたかを話すと、友人の一人が冷たい声で呟いた。

「それ、冷たい砂の音ってやつじゃない?」

翌朝、昨夜のことを確かめるために砂浜を調べたが、足跡や引きずられた跡などは何もなかった。ただ、一箇所だけ砂が異常に冷たく、湿っている場所があった。

その場所を掘ってみようとしたが、友人たちに止められた。

「掘るなって。この砂の下には誰かがいるって言うんだよ」

それ以来、あの海岸には行っていない。ただ、夢の中で時折、ザラザラと冷たい砂の音が聞こえる。

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