消えた信号機

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大学時代、夜更かししては深夜に散歩をするのが癖だった。何も考えずに歩き回るのが好きで、特に人気の少ない郊外の道路が気に入っていた。

その夜もいつものように散歩に出かけた。秋の冷たい風が吹き、街はすっかり静まり返っていた。いつものルートを歩き、しばらくすると、少し古びた交差点に差し掛かった。

その交差点には、特徴的な信号機があった。柱が錆びていて、赤と青のライトが妙にくすんでいる。誰もいない交差点で、その信号機だけが規則的に点滅しているのが、いつもどこか不気味だと思っていた。

信号が青になるのを待ちながらぼんやりしていると、ふと足元に何かが落ちているのに気づいた。小さな金属片のようなものだ。拾い上げると、それは信号機のボルトの一部だった。

「大丈夫か、これ?」

そう思いながら見上げると、信号機の光が一瞬揺らいだように見えた。そして次の瞬間、全ての光が消え、交差点は真っ暗になった。

驚いて周囲を見渡したが、辺りは静まり返っている。信号機が壊れたのかもしれないと歩き出そうとした時、遠くから車のエンジン音が聞こえてきた。

交差点に近づく車のライトがこちらを照らし、私は足を止めた。運転席に座る人影が見えるが、妙にぼやけている。まるでそこにいないかのような不確かな輪郭だった。

車が交差点を通り抜けようとした瞬間、信号機が突然赤に点灯した。次の瞬間、車は急ブレーキをかけるでもなく、交差点の中央で一瞬にして消えた。

跡形もなく。

恐怖で足がすくみ、その場を逃げ出した。次の日、友人にそのことを話したが、笑われるだけだった。「疲れてたんだろ」と。

しかしその夜、再び散歩に出かけた私は、あの交差点に立ち寄ってみることにした。

信号機は元通り点滅していたが、何かが違う。柱には手書きのような文字が掘り込まれていた。

「通らせてくれ」

意味が分からず、怖くなって家に逃げ帰った。それ以来、あの交差点には近づかなくなった。

数年後、ふと思い出してその場所を訪れてみた。しかし、そこに交差点はなかった。信号機も消えていて、道路が寸断され、草むらに覆われていた。

近くの人に聞くと、「その道は何年も前に廃止されている」と言われた。確かに、最後に見たあの信号機は何だったのか。

それから夜道で交差点に立ち止まるたび、信号機の「赤」が点滅する音が、妙に耳に残る。

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