踏切の向こう

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大学のサークルで夜遅くまで飲んでいた帰り道のことだ。電車はとっくに終わっていたから、自転車で帰るしかなかった。冬の寒さが身に染みる中、人気のない住宅街を通り抜けて帰路を急いだ。

途中、小さな踏切を通ることになった。その踏切は地元でも有名な「旧線跡」の一部で、今では廃線になり、線路もほとんど撤去されている。ただ、踏切のバーだけはそのまま残されていて、たまに車が止まってしまうことがあるらしい。

その日は珍しくバーが下りていた。もちろん電車が通るはずもない。目の前にはただ草むらに続く錆びついた線路だけが見える。けれど、バーの赤い点滅灯が規則正しく光り、カンカンという音が暗闇に響いている。

酔いも手伝ってか、「なんだよ、故障か?」と呟きながらバーの下をくぐり抜けた。その時、耳元で微かに声がした。

「危ないぞ」

一瞬、足が止まった。振り返ってみたが、誰もいない。気のせいかと思い、再び自転車をこぎ始めたその瞬間、後ろから「ゴォォン」という重低音が聞こえた。

慌てて振り返ると、真っ暗だった線路の先に、ぼんやりとした光が浮かんでいる。それはどんどんこちらに近づいてきた。懐中電灯か何かかと思ったが、音は次第に大きくなり、光は赤いテールランプのように見えた。

「まさか……電車?」

そんなはずはないと思いつつも、恐怖で動けなかった。光はすぐ目の前まで迫り、轟音と共に私の横をすり抜けていった。あまりの勢いに、私はその場に尻もちをついてしまった。

気がつくと、光も音も消えていた。ただ、私の横にはかつての踏切の標識が倒れていて、その下に古びた標識板が埋もれていた。

そこにはこう書かれていた。

「昭和38年 脱線事故現場」

後日、気になってその場所のことを調べてみた。どうやら、昭和38年にその踏切付近で貨物列車が脱線し、大勢の犠牲者が出たらしい。廃線となった後も、その場所では「列車の音がする」「踏切が勝手に作動する」といった噂が絶えないという。

その日以来、私はその踏切を避けて遠回りをして帰るようにしている。ただ、一つだけ不気味なことがある。家の近くを歩いていると、時折背後で「カンカン」という踏切の音が聞こえる気がするのだ。

誰もいない、線路のない道で。

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