昔 影 子供

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当時、私は地元の農業協同組合で働いていた。夏の終わり、少しずつ日が短くなって、涼しい風が吹き始めた頃、帰り道に何度か奇妙な体験をしたことがある。

家までの道は田んぼが続く一本道で、街灯も少ない。帰りが遅くなると真っ暗で、足元も見えないくらいだった。自転車をこいでいると、風の音と虫の声だけが響き、どこか不気味な静けさが漂う。ある晩、ふと感じたんだ。誰かが後ろにいるような気配を。

振り返っても誰もいない。でも、その気配は消えなかった。背中にひやりと冷たいものが走るような感覚が続き、急にこぎ出す足が重く感じた。何度も何度も振り返ったが、やはり誰もいない。

次の日も同じ道を通ったが、その日は特に何も起こらなかった。安心して、「気のせいだったんだろう」と思いながら帰った。

だが、その数日後、また同じ場所であの不気味な感覚が襲ってきた。背後から何かがじわじわと近づいてくるような、得体の知れない圧迫感。私は足を止めて、静かに立ち止まった。心臓の音がはっきり聞こえるほど静まり返っていた。

それから、目の端に何かが映った。小さな影が田んぼの中をゆっくりと横切っていた。子供のように見えたが、妙に不自然な動きだった。人間ならそんな風に動けるはずがない、という動きだ。

その時、何も考えずに自転車を全力でこぎ出した。あの影が何なのか、確かめる勇気はなかった。

次の日、地元の年配者にその話をすると、彼は一言だけ「見たんだな」と言った。その後、彼は何も説明してくれなかった。だけど、話をしている最中、彼の顔が急に険しくなり、深く息をついた瞬間、これ以上は聞かない方がいいと感じた。

それ以来、その道を通るときはできるだけ早く帰るようにしている。もう二度と、あの影に出会いたくはないからだ。

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