畳の焦げ

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僕は、数年前に住んでいたアパートのことを今でもよく思い出す。古い木造の建物で、賃料が安かったため、あの時はそこにしか住めなかったんだ。築年数が相当古かったけど、部屋自体はそこそこ広くて、和室の畳があるのが少し気に入っていた。

引っ越して最初の夜は、ほぼ寝具を並べただけで、疲れてすぐに寝てしまった。その時は特に何もなかったんだ。だけど、次の日、部屋を整理している時に、畳の一部に何か焦げたような跡があるのに気がついた。タバコを押し付けた跡のように見える焦げが、いくつか点在していた。

僕はタバコを吸わないから、前の住人が残したものだと思い、特に気にしなかった。畳も古びていたし、焦げ跡の一つや二つくらいあってもおかしくないだろうと思って、作業を続けたんだ。

ただ、それから数日経ってから、妙なことが起き始めた。夜、眠りにつこうとすると、ふと、どこからか煙草の煙のような匂いが漂ってくることがあった。もちろん、僕はタバコを吸わないし、部屋に誰かが入ってきたわけでもない。でも、その匂いは、畳の方から微かに漂ってくるようだった。

最初は隣の部屋の住人かと思ったけど、どうやらそうでもない。匂いは夜中になると強まるように感じた。しかも、何度か夜中に目が覚めると、その焦げ跡の部分が妙に光っているように見える時があったんだ。もちろん、電気も何もつけてないのにだ。

ある夜、いつものようにベッドに入った後、突然強烈な煙草の匂いで目が覚めた。咳き込みそうなほどの濃い匂いで、何かが燃えているんじゃないかと思ったくらいだ。慌てて部屋の電気をつけて畳を確認すると、驚いたことに、そこに新しいタバコの焦げ跡が増えていた。確かに、昨日まではなかったはずの場所に、真新しい焦げ跡がくっきりと残っていたんだ。

その時、気味が悪くなった僕は、急いで部屋を出て、しばらく戻らないことにした。それでも、心のどこかでは「あの部屋の畳に何かがある」と感じ始めていた。翌日、大家に相談したけど、何も異常はないと言われ、特に解決策も出てこなかった。

最終的に僕は数ヶ月でそのアパートを出ることになった。引っ越しの日、最後にもう一度畳の焦げ跡を見た時、畳全体に無数のタバコの跡が広がっているのを見て、背筋が凍った。最初に見た時よりも、確実に増えていた。

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