切り落とされた窓

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郊外にある小さなアパートに引っ越したのは、静かな場所で仕事に集中したいと思ったからだった。古びた建物ではあったが、家賃が安く、窓から見える景色も悪くない。長い一日の終わりに外を眺めるのは、日常のささやかな楽しみの一つだった。

ある夜、ふとベランダの窓を眺めていた時のことだ。見慣れた風景に何か違和感を覚えた。隣の部屋の窓が、いつの間にか無くなっていることに気づいたのだ。

「変だな、確かにあったはずだけど…」そう思って、翌日、大家に尋ねた。しかし大家は「隣の部屋には最初から窓なんて無いよ」と笑いながら答えた。妙な気持ちを抱きながらも、自分の記憶違いだろうと納得しようとした。

だが、それから数日後、今度は自分の部屋の窓に変化があった。ベランダに出ようとした時、窓枠の角が明らかに小さくなっていることに気づいたのだ。最初は何かの錯覚かと思ったが、次の日も、そしてその次の日も、窓の一部が確実に消え始めている。

窓が少しずつ「切り落とされている」ように見える。まるで何かが夜の間に少しずつ窓を削り取っているかのようだ。不気味に思い、窓に何かが接触していないか夜中に確認しようとしたが、何も見当たらない。それでも、翌朝になると窓の一部がまた無くなっている。

ある夜、意を決して窓の前で見張ることにした。明かりを消し、カーテンを少しだけ開けて外を伺う。時間が過ぎ、深夜の2時頃、静寂の中で突然「カリ、カリ…」と小さな音が聞こえてきた。音は窓の外からだ。何かが窓に接触している音だが、暗闇に目を凝らしても何も見えない。

音は次第に大きくなり、窓が削られる音が確かに耳に入ってくる。その瞬間、寒気が背中を走った。音の正体を突き止めようとベランダに出ようとしたその時、窓の外に人の形をした影が現れた。だが、それは明らかに人ではなかった。

その影は窓を覗き込み、まるでそこに無い何かを探すかのように動いていた。手のようなものが窓に触れ、「カリ…カリ…」と削り続ける。そして、その手が窓の内側に伸びようとするのが見えた。

急いでカーテンを閉め、息を潜めた。次の日、窓の半分以上が消えかけていた。それだけではなく、壁にも小さな裂け目が現れていた。隣の部屋の住人もいつの間にか姿を消していた。

もうこの部屋にはいられないと感じた私は、荷物をまとめて急いで引っ越した。だが、引っ越し先である新しい家の窓にも同じ「カリカリ…」という音が聞こえてきた。気づくと、窓枠の一部が、また少しずつ消え始めている。

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