浮かぶ子供

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Aさんは地方の田舎町で育ち、幼い頃、よく近くの川で遊んでいたそうです。その川は地元の子供たちの遊び場で、夏には水遊びや魚取りを楽しむ場所でもありました。

しかし、Aさんが住んでいた町には、昔からその川には「近づいてはいけない日」があると言い伝えられていました。それは、ちょうど梅雨の時期、川が増水する頃だと言われていました。

その時期に、川で子供が溺れて亡くなったことがあり、それ以来、その季節には決して近づいてはいけないと、地元の年配者たちは口を揃えて言っていたんです。

ある年の梅雨時期、Aさんは友達数人と遊んでいて、ふとその川のほとりに行きました。最近の大雨で川は増水しており、茶色い濁った水がいつもより速く流れていました。普段は綺麗で穏やかな流れも、この時期だけは荒々しく、少し不気味な感じさえします。

川の近くで遊んでいると、友達の一人が「何か浮かんでいるぞ」と声を上げました。Aさんたちは驚いて川の方を見ましたが、最初は何も見えませんでした。でも、目を凝らしてみると、確かに何かが川面に浮かんでいるのが見えます。

「なんだろう?」

よく見ると、それは人の形をしていました。まるで、子供の体が川の水面に浮かんでいるかのように見えたんです。服を着ていて、手足をだらりと垂らしながら、ゆっくりと流れていく。水面に浮かぶその姿は、明らかに何かが違う。普通の人間の体なら、水の流れに逆らっているような動きはしないはずです。

しかし、その子供のような姿は、流れに乗るどころか、まるで川の上を漂うように静かに進んでいました。

Aさんたちは言葉を失い、ただその浮かんでいるものを見つめるしかありませんでした。誰かが「助けなきゃ」と言い出しましたが、誰一人として川に近づくことができませんでした。それは、本能的に「これは近づいてはいけない」と感じたからです。

その「子供」はやがて川の流れに沿って遠ざかり、見えなくなりました。Aさんたちは気味悪くなり、その日は早々に引き返しました。

後日、地元の人にその話をすると、やはりその川で昔亡くなった子供の霊だと言われました。その子供は、川が増水するたびに浮かび上がり、近づく人を水の中に引きずり込むという話が、地元では昔から伝わっていたんです。

Aさんはそれを聞いて、あの日、近づかなくて本当によかったと思ったそうです。それ以来、梅雨の時期になると決して川には近づかなくなったそうですが、今でも大雨が降ると、あの川で子供が浮かんでいるのではないかと、時々思い出すそうです。

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