それは、学生時代の山登りの合宿での出来事だったんだ。あの時、俺たちは夏休みを利用して、山岳部で合宿に出かけていた。山の深いところにテントを張って、数日間滞在していたんだけど、その山は地元でもちょっとした霊山として知られていて、妙に雰囲気があったんだよね。
ある日の夕方、山の中腹あたりで休憩を取っていた時のことだ。風が心地よくて、空気も澄んでいて、まさに自然の中にいるなって感じだった。で、その時、ふと思いついて、仲間の一人が声を上げたんだ。
「やっほー!聞こえますかー?」
その声は見事に山に響いて、返ってきた。「やっほー!」とやまびこが。みんなで「おー、すごいな」なんて笑いながら楽しんでたんだよね。
でも、そのあと何かがおかしかったんだ。もう一度、別の仲間が同じように「聞こえますかー?」と叫んだら、返ってきたやまびこが、妙に遅かったんだよ。普通なら、すぐに返ってくるはずのやまびこが、何秒か遅れて「聞こえますかー…」って、遠くの方から戻ってきた。
「あれ?今の変じゃない?」ってみんなざわざわし始めたんだけど、誰も特に気にせずに「もう一回やってみようぜ」って言って、今度は俺が叫んだんだ。
「聞こえますかー!」
しばらくの静寂があって、やっぱり遅れて返ってきたんだ。「聞こえますかー…」ってね。でも、なんか声が違うんだよ。俺たちが出した声よりも、少し低くて、まるで別の誰かが叫び返してるような…そんな感じだった。
その瞬間、全員がぞっとして、誰も何も言わなくなった。さっきまで楽しげだった空気が一変して、何とも言えない重苦しい雰囲気に包まれたんだ。
それでも、何となく確認したくなって、今度は少し静かに、でもはっきりと「聞こえますか?」ってもう一度叫んだんだよ。すると、やっぱり遅れて返ってきたんだ。「聞こえますかー…」と、今度はもっと低い声で。
その声、どこから聞こえてくるんだろうってみんなで耳を澄ましてたら、山の奥深く、ちょうど谷の方から何かが応えてるような気がしたんだよ。いや、確実にそこから「何か」が声を出していた。
その日はもう怖くなって、誰もやまびこ遊びをすることはなかった。それどころか、急に天気も悪くなってきたので、俺たちは慌ててテントに戻ったんだ。
その後、何も特別なことは起こらなかったけど、帰り道、ふと仲間の一人が「聞こえたやまびこ…あれ、本当に俺たちの声だったのかな」って呟いたんだ。
あの「聞こえますかー」の声は、果たして俺たちに返ってきたやまびこだったのか、それとも山の奥深くに住む「何か」が応えていたのか…今でもわからない。でも、あの時の不気味なやまびこの響きは、決して忘れられない。
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