これは、私がまだ学生だった頃の話です。ある日の夕方、友人と二人で学校の近くにある公園を通り抜けようとしていました。公園は普段から人が少なく、少し寂れた雰囲気のある場所で、夕暮れ時には不気味さが漂っていました。その日は特に風もなく、静まり返っていたんです。
友人と話しながら歩いていると、何か妙なものが視界の端に映りました。遠くのベンチのそばに、背の高い、やけに細い人影が立っているのです。最初はただの人だと思いましたが、何か違和感を感じました。
「おい、あれ、見てみろよ…」
友人も気づいたらしく、二人でその影に目を向けました。薄暗くなっていたため、はっきりとは見えませんでしたが、どうもその人影は普通の人間ではない。まるで、棒で作られたかのような体つきで、四肢が細長く、異常に細い。それでいて、動かずじっと立っているんです。
怖くなって、二人で「なんだあれ?」と小声で話しながら近づいてみることにしました。でも、10メートルほどまで近づいた時、急にその棒人間の頭がこちらを向いたんです。顔なんてないはずなのに、確かに「こちらを見ている」と感じた瞬間、背筋に冷たいものが走りました。
そして、その時です。突然、公園のスピーカーが鳴り響き、どこからか女性の声が聞こえてきました。
「帰りの時間です。」
その声は、まるで公園の閉園を知らせるような、淡々としたトーンでした。時計を見ると、確かにもう夜が近づいていて、帰る時間が迫っていました。でも、その声には何か不気味な響きがありました。まるで、「帰りなさい」と強制されているような…。
友人も私も、その声に急かされるように公園を出ようとしましたが、ふと背後を振り返ると、あの棒人間がいつの間にか、少しこちらに近づいていたんです。ゆっくりと、音もなく。
急いで公園を出て、振り返らずに駆け抜けました。心臓がバクバクして、息が切れそうになるまで走り続けました。やっとのことで街灯のある通りに出たとき、ようやく少し安心しましたが、あの棒人間の姿は忘れられませんでした。
翌日、あの公園にもう一度行ってみましたが、もちろんあの「棒人間」はいませんでした。代わりに、公園の管理人らしきおじさんがベンチの近くで掃除をしていたので、思い切って聞いてみました。
「あの…この公園、昨日変な放送がありましたよね?『帰りの時間です』って…」
すると、おじさんは不思議そうな顔をしてこう言いました。
「え?放送なんかしてないよ。うちの公園にはそんな設備もないし、夜にそんなアナウンスが流れることはないよ。」
ゾッとしました。あの棒人間も、あの声も、一体何だったのか…。今でもあの出来事が本当にあったのかどうか、確信が持てません。
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