それは、私がある日の夜、自宅で一人静かに過ごしていた時のことです。何も特別なことはなく、普段通りに音楽を流しながら、リラックスして過ごしていました。部屋には、スピーカーから流れる穏やかなピアノの曲が響いており、その音に包まれていると、いつの間にかウトウトと眠りに落ちていました。
ところが、夜中にふと目が覚めました。何か妙な音が聞こえるのです。最初は遠くでかすかなノイズのようなものが耳に入ってきました。眠気もあって、最初はただの雑音かと思っていたのですが、次第にそれが明確なものに変わってきたのです。
「…ん、んー…」
微かに、誰かが歌っているような声が混じっていました。それも、私が寝る前に流していた音楽の中に。おかしいなと思い、寝ぼけ眼でスピーカーを確認しましたが、曲はそのまま流れているはずです。しかし、耳を澄ますと、その歌声がどんどん大きく、そしてはっきりと聞こえてくるのです。
それは女性の声でした。低く、落ち着いた声色で、何かを囁くように歌っています。しかし、歌詞はまるでわからず、ただメロディに乗った不気味な旋律だけが部屋に響いていました。鳥肌が立ち、スピーカーをオフにしてみました。けれども、歌声は止まりません。
気がつくと、部屋中にその歌声が広がり、まるで私に向かって歌っているかのように感じました。恐怖を感じ、音楽プレーヤーや機械を全てシャットダウンし、静まり返った部屋に耳を澄ませました。今度こそ歌声は消えただろうと思ったその瞬間でした。
「…わたしを…聞いて…」
明らかに、すぐ耳元でその声が囁かれました。体が硬直し、冷や汗がじわりと背中を伝います。部屋には誰もいない。なのに、その声だけが耳元で生々しく響き渡り続けていました。どうしても耐えられず、部屋を飛び出して一晩を過ごしたことを覚えています。
翌日、音楽プレーヤーを確認しても異常は見つかりませんでした。しかも、あの歌声は二度と聞こえませんでした。でも、その夜以来、ふと静かな場所にいると、あの時の歌声が思い出され、どこかで誰かが、また私に歌いかけているような気がしてならないのです。
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