丸い顔

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その夏、家族で山奥のキャンプ場に行くことになった。キャンプ場のすぐ近くには綺麗な川が流れていて、水が透き通っていて、底までよく見えるんだ。兄と一緒に川遊びをして、魚を捕まえたり、水をかけ合ったり、楽しい時間を過ごしてた。

でも、川で遊んでいる最中、俺はあることに気づいたんだ。川底に何かがあるって。最初はただの大きな石だと思ってたんだけど、よく見てみると、その「石」は何か違う形をしていた。

川の流れが緩やかな場所で、ふと足を止めて川底を覗き込んだんだ。水は冷たくて透明で、足元から川底がはっきりと見えた。そこに沈んでいたのは、妙に「丸い形」をしたものだった。さらに目を凝らして見ると、それが「顔」に見えてきたんだ。

ただの石じゃない。まるで、人間の顔を模したような、丸い顔。目が細く、口も薄く開いている。目は何も感情を持っていないかのように、ただ川の中からこちらをじっと見つめているようだった。普通の表情じゃなかったんだ。川の底で、静かに水流に揺られているだけなんだけど、異様な存在感があった。

「お兄ちゃん、あれ、何か見える?」って俺が兄に聞いたんだけど、兄は「ただの石だろ、そんなに気にすんなよ」って笑ってた。でも、どうしてもその顔から目を離せなくて、川底のその「顔」をじっと見ていた。

少し怖くなって、川から上がろうとしたその瞬間、顔の輪郭がわずかに動いたような気がしたんだ。まるで水の流れに沿って、微かに表情を変えたかのように、目が少し動いているように見えた。

ゾクッとした。まさか、ただの石が動くわけがない。俺は急いで川から飛び出して、その場を離れた。でも、心の中では「本当に顔だったんじゃないか?」という思いがずっと消えなかった。

その夜、キャンプ場に戻ってからも、あの川底の「顔」のことが気になって眠れなかった。次の日、もう一度川に行って確認してみようと思ったんだけど、不思議なことに、その場所に行っても「顔」は見つからなかった。何度も川底を探したけど、あの日見たあの丸い顔はもうどこにもなかったんだ。

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