木の上で歌う人たち

スポンサーリンク

これは、俺がまだ小学生だった頃に体験した不思議な話なんだ。

夏休み、家族で祖父母の家に遊びに行った時のことだ。祖父母の家は田舎にあって、家の裏には大きな森が広がっていた。子供の頃はその森でよく遊んでいて、虫取りをしたり、木登りをしたりして過ごすのが楽しみだった。

その日は、夕方になって少し涼しくなってきたから、俺は一人で森に散歩に出かけたんだ。木々が揺れる音と虫の声が響いていて、静かで心地よかった。でも、ふと、いつもと違う音が聞こえてきたんだ。

「ん?歌声?」

最初は風の音かと思ったけど、耳を澄ますと、それは明らかに「誰かが歌っている」声だった。しかも、一人じゃなくて、大勢の人が歌っているような、合唱みたいな感じ。声が響いてくる方向を探しながら森を歩いていくと、声がだんだんと大きくなってきて、明確に聞こえてきた。

そして、ある大きな木のそばに来た時、その歌声が頭の上から聞こえてきたんだ。

見上げると、その木の上に大勢の人影が見えたんだ。木の枝の間に何人もの人が立っているかのような姿が、夕日に照らされてぼんやりと浮かび上がっていた。彼らは一糸乱れずに歌っていたんだ。歌詞は聞き取れなかったけど、メロディーはどこか懐かしいような、でも不気味な感じもした。

「なんで木の上に大勢の人がいるんだ?」

俺はその場で立ち尽くして、ただ木の上を見つめていた。足がすくんで動けなかったんだ。彼らの歌声はまるで風に乗って森全体に響いているかのようで、どこからどこまでが現実なのか分からなくなるような感覚だった。

そして、ふと気づくと、歌声がピタッと止んだんだ。森全体が静まり返り、さっきまでの賑やかな合唱が嘘のように消えてしまった。俺は怖くなって、急いで家に戻ったんだ。

家に戻ってから祖母にその話をしたら、彼女は少し困ったような顔をしてこう言った。

「この森にはね、昔から“木の上で歌う人たち”の話があるんだよ。人間じゃないかもしれないって、みんな言ってるけどね……。」

それ以上は教えてくれなかったけど、その後、俺はもう森に一人で行くことはしなかった。

コメント

タイトルとURLをコピーしました