これは、俺が鹿児島に旅行に行った時の話なんだ。鹿児島には歴史のある古い旅館がたくさんあって、せっかくだからと友達と一緒にそのうちの一つに泊まることにしたんだ。古風な作りの建物で、雰囲気がすごく落ち着いていて、部屋には立派な屏風が置かれていたんだよ。
その屏風、細かい絵が描かれていて、風景とか花鳥風月みたいなものが描かれてたんだけど、どこか目を引くんだ。夜、旅館の部屋でくつろいでた時、なんとなくその屏風を見てたんだけど、どうも気になって、じっと見つめていた。
屏風の絵自体は何も特別じゃないんだけど、どういうわけか、その影が妙に気にかかったんだ。部屋の照明が淡く照らしてるせいか、屏風の後ろに薄暗い影が映り込んでいて、まるで何かがそこに潜んでいるように見えたんだよ。最初は「ただの影だろう」って思って無視してたけど、どうにも気になって、もう一度よく見てみたんだ。
すると、影の中に、はっきりと「人の形」が見えるような気がしたんだ。誰かが屏風の裏に立ってるような、そんな感じ。でも、友達も部屋にはいるし、そんなはずはないんだ。気味が悪くなって、「あれ、誰かいないか?」って友達に声をかけたけど、友達は全然気づいてなかった。
「おい、屏風の影、何か見えない?」って聞いても、「何も見えないよ、疲れてるんじゃないか?」って笑われた。でも俺は、その影がどうしても気になって、夜中にもう一度起きて、確かめてみることにした。
部屋は静まり返って、外の風の音だけが聞こえてた。もう一度、屏風の方を見てみたんだ。すると、今度ははっきりと見えたんだよ。屏風の裏に、誰かが立っている影が。
影はまるで、こちらをじっと見つめているかのように動かない。人の形をしていて、少しだけ前かがみになっているような姿勢だった。怖くなって、友達を起こそうとしたその瞬間、その影がゆっくりと動き始めたんだ。
影がスクッと立ち上がり、屏風の裏から出てくるかのようにスーッと揺れたんだ。全身に鳥肌が立って、声も出なくなった。ただ、その影を見つめるしかなかったんだ。
でも、次の瞬間、影は消えてしまった。まるで、最初からそこにいなかったかのように、スッと消えたんだよ。
その後、友達にその話をしたけど、全く信じてもらえなかった。でも、旅館の女将さんにさりげなく「屏風に何か不思議なことがあったりするんですか?」って聞いてみたら、彼女は少し顔を曇らせて、「さぁ知りませんが」って静かに言ったんだ。
あの夜、屏風の影に何が映っていたのか、そしてあの「人影」が何だったのかは分からない。でも、鹿児島の旅館で見たあの影は、今でも俺の記憶に残っていて、時々思い出しては背筋が寒くなるんだ。
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