私が住んでいるアパートは、古くて静かな場所にあった。周りにはあまり人通りもなく、夜になるとひっそりとしている。私にとっては落ち着いた環境で、仕事から帰ってくるとホッとする場所だった。
ある夜のこと、私は仕事で疲れ果ててアパートに戻ってきた。玄関のドアを開け、靴を脱いでリビングに向かおうとしたその時、外から奇妙な音が聞こえてきた。砂利を踏む音が、静かな夜の空気を裂くように響いたのだ。
「こんな時間に誰かが歩いているのか…?」
私は不思議に思い、窓を開けて外を見た。しかし、誰もいない。アパートの前の小道は、月明かりに照らされているだけだった。私は首をかしげながらも、気にせずに部屋に戻った。
それから数日後、また同じように砂利を踏む音が聞こえた。今回は夜遅くではなく、早朝だった。私はベッドから起き上がり、再び窓の外を確認したが、やはり誰もいない。音は確かに聞こえたのに、音源が見つからないのだ。
「何なんだ、この音…」
私は少し不安になりながらも、その日は仕事に出かけた。音のことを考えないようにしていたが、頭の中から離れなかった。仕事中も、砂利を踏む音が耳にこびりついていた。
その夜、私は意を決して外に出て、音の正体を突き止めることにした。懐中電灯を手に取り、アパートの周りを歩き始めた。砂利道に出ると、足元でザクザクという音が響いた。何かが私の後をつけているような気がした。
「誰かいるのか?」
私は声を出してみたが、返事はなかった。ただ、砂利を踏む音が続いていた。私は懐中電灯を振り回し、辺りを照らした。すると、音が急に止まった。
「何なんだ…」
私は周囲を見渡したが、何も見えなかった。砂利道には私一人だけが立っていて、音は完全に消えていた。不安が募り、私は急いでアパートに戻ることにした。
その夜、私はなかなか眠れなかった。あの音が頭の中で反響し、何かが私を見ているような気がした。目を閉じても、砂利を踏む音が耳の奥で鳴り響いていた。
次の日、私は友人に相談することにした。友人のケンはオカルト好きで、よく怪談話をしていた。彼なら何か知っているかもしれないと思った。
「それはおかしいな。普通なら何かが音を立てているはずだけど、何も見えないんだろ?」
ケンは私の話を聞いて、興味深そうに言った。
「うん、確かに音はするんだけど、誰もいないんだ。見えない何かが砂利を踏んでるみたいで…」
私の言葉に、ケンは少し考え込んだ後、提案した。
「じゃあ、今夜俺も一緒に行ってみようか。何か手がかりがあるかもしれない」
その夜、ケンと私はアパートの前で音がするのを待った。しばらくして、砂利を踏む音が再び聞こえてきた。ケンは懐中電灯を手に、音の方に向かった。
「確かに音がする。でも何もいないな…」
ケンは周りを照らしながら言った。私は緊張しながら彼の後ろに立っていた。音は私たちの周りを旋回するように響き、次第に近づいてくるように感じた。
突然、ケンが何かに気づいた。
「おい、見てみろ。砂利の上に何か跡があるぞ」
私が懐中電灯を向けると、砂利の上に奇妙な跡が見えた。まるで何か重いものが引きずられたような跡だった。それは人の足跡ではなく、不規則な形をしていた。
「これ…何だろう?」
私が呟いたその時、音が急に止まった。ケンと私は背筋が凍る思いで辺りを見回した。何も見えない。ただ、音が消えたという事実だけが恐怖を煽った。
「もしかして、これは生き物じゃないのかもしれないな…」
ケンがぽつりと呟いた。その言葉に、私は急に恐怖が押し寄せてきた。何かが私たちを見ている。見えない何かが、私たちの周りにいる。
その後、私たちは急いでアパートに戻った。砂利の音は再び響くことはなかったが、あの時感じた何かが今も私を追い詰めている。見えない何かが、砂利道の上で私たちを待ち続けているような気がしてならない。
音が何を意味していたのか、なぜ見えない何かが音を立てていたのか、真相は分からない。あの夜の出来事が現実だったのか、それとも夢だったのか、今でも答えは見つからない。ただ一つ確かなのは、あの見えない音が私の心に深い影を落としているということだ。
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