カマドウマの群れ

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小さな町の端にある山のふもとには、昔の戦争の名残である防空壕がいくつか残されていた。子供の頃からその存在を知ってはいたが、誰も近づこうとはしなかった。古くて崩れかけており、危険だからという理由もあったが、それ以上に何か不気味な雰囲気が漂っていたからだ。

ある日、私は友人のヒロシと一緒に防空壕の近くを通りかかった。学校の帰り道、好奇心に駆られて、つい足を踏み入れてしまった。

「ちょっと見てみようぜ、あの中」

ヒロシが提案した。私は少し怖かったが、ヒロシの強引な誘いに負けて、一緒に防空壕の入り口へと向かった。入り口は草木に覆われており、暗闇が口を開けているように見えた。

「本当に入るのか?」

私は不安げに尋ねたが、ヒロシは笑って先に進んだ。

「大丈夫だって。何もないさ」

ヒロシが懐中電灯を取り出し、暗い防空壕の中を照らした。私たちは慎重に足を踏み入れた。中はひんやりとしていて、湿った空気が漂っていた。懐中電灯の光が壁を照らし、古い木材や石が散乱しているのが見えた。

「ここ、なんか気味が悪いな…」

私はつぶやいたが、ヒロシは気にせず奥へと進んだ。その時、突然、何かが足元で動く音がした。私たちは驚いて足を止め、音のする方を見た。懐中電灯の光が小さな影を捉えた。

「なんだ、あれ…?」

ヒロシが懐中電灯を近づけると、それはカマドウマだった。大きな脚を持ち、ぴょんと跳ねる姿が見えた。私は背筋が寒くなったが、ヒロシは笑いながら言った。

「ただのカマドウマじゃないか。びっくりすることないさ」

私たちは再び歩き出したが、カマドウマは次々と現れ、私たちの周りを跳ね回った。私はカマドウマが嫌いで、どうしても気味が悪く感じてしまった。

「もう出ようよ、ヒロシ」

私はそう言って立ち止まったが、ヒロシは先に進むことをやめなかった。彼は何かを見つけたようで、興奮した声を上げた。

「見てくれ、これ!古い道具がいっぱいだ!」

ヒロシが指差した先には、古びた箱や工具が散らばっていた。戦時中に使われていたものだろうか、見るからに古く、錆びついていた。私は興味を引かれ、ヒロシに近づいた。

「触らない方がいいんじゃないか?」

私は警告したが、ヒロシは無視して箱を開けた。すると、中から何かが飛び出した。私たちは驚いて後ずさりした。カマドウマが一斉に箱の中から這い出し、私たちの周りを跳ね回った。

「やばい、出よう!」

私は叫び、ヒロシの腕を引っ張った。しかし、彼は足を取られて転んでしまった。カマドウマが彼の体に這い上がり、彼は恐怖で叫び声を上げた。

「助けてくれ!」

私は必死にヒロシを引き起こそうとしたが、カマドウマが彼の足に巻き付いていた。彼の目が私に向かって叫んでいた。

「もう限界だ…助けてくれ…」

私はどうすればいいのか分からず、ただヒロシの腕を掴んで引っ張った。その時、カマドウマが私の手にも這い上がってきた。冷たい感触が肌を伝わり、私は恐怖で叫び声を上げた。

「もう嫌だ、出よう!」

私は力を振り絞り、ヒロシを引っ張り出した。カマドウマが足元で跳ね回り、私たちは必死に外へと走った。外の光が見えた時、私はようやく安堵のため息をついた。

私たちは防空壕から飛び出し、草むらに倒れ込んだ。カマドウマは防空壕の中に戻り、静けさが戻った。ヒロシは震えながら私を見つめた。

「あんなにたくさんのカマドウマ、初めて見たよ…」

彼の声は震えていた。私も同じだった。あの防空壕の中で何が起こったのか、なぜあんなにカマドウマがいたのか、答えは分からなかった。ただ、あの場所にはもう二度と近づかないと誓った。

その後、私たちは防空壕の話を誰にも言わなかった。あの日の出来事が現実だったのか、それとも夢だったのか、今でも分からない。防空壕の中で見たものが何だったのか、カマドウマが何を意味していたのか、真実は闇の中だ。

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