五月晴れの旋回

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その日は、まさに五月晴れだった。空は青く澄み渡り、太陽の光が柔らかく街を包み込んでいた。私は友人と一緒に近くの公園に行くことにした。公園には新緑の木々が茂り、子供たちが楽しそうに遊んでいた。

「今日は本当にいい天気だね」

友人が笑顔で言った。私も頷きながら、ベンチに腰を下ろした。周りには家族連れやカップルが集まり、皆が穏やかな休日を楽しんでいた。

しばらくして、私はふと視線の先に奇妙なものを見つけた。公園の隅に、古びた人形が置かれていたのだ。その人形は、まるで誰かが捨てたかのように無造作に地面に転がっていた。

「なんだろう、あれ…」

私は興味を引かれ、人形に近づいた。人形は小さな女の子の形をしていて、着ている服はボロボロで汚れていた。顔も薄汚れていて、目はガラス玉のように光っていた。何より奇妙だったのは、その人形が何かに覆われているように見えたことだった。近づいてよく見ると、人形の表面がバリバリと何かで覆われていた。

「これ、何かのゴミでも付いているのか?」

私は人形を手に取ってみた。すると、バリバリと音がして、人形の表面が剥がれるような感触があった。まるで古い紙が破れるような音だった。私は驚いて手を引っ込めた。

「何してるの?」

友人が後ろから声をかけてきた。私は人形を見せながら説明した。

「この人形、なんだか変なんだよ。表面がバリバリしてて、まるで何かに覆われてるみたいなんだ」

友人も興味を持ったようで、人形を覗き込んだ。しかし、彼女は何も感じなかったようで、肩をすくめた。

「ただの古い人形じゃない?捨てられたのかもね」

私は納得しないまま人形を地面に戻した。気味が悪いと感じながらも、友人と一緒に公園を後にした。

その日の夜、私は奇妙な夢を見た。夢の中で、私は再びあの公園にいた。空は暗く、風が強く吹いていた。木々の葉が揺れ、耳をつんざくような風の音が響いていた。

私は公園の隅に向かって歩いていた。足元に何かが転がっているのが見えた。あの人形だった。人形は地面に転がり、バリバリと音を立てていた。その音が不気味で、まるで何かが人形の中から這い出てくるように感じられた。

突然、人形が動き出した。まるで生きているかのように、自分で立ち上がり、私の方に向かって歩いてきた。私は恐怖で後ずさりしたが、足が動かなくなった。人形は近づいてくる。バリバリと音を立てながら、まるで私を追い詰めるかのように。

「やめてくれ…」

私は叫び声を上げたが、人形は止まらなかった。次の瞬間、人形が私の足元に巻き付き、私を倒した。地面に倒れ込んだ私は、顔の前に人形の顔があった。その目がギラギラと光り、口が動いた。

「バリバリ…バリバリ…」

その言葉が耳に響き、私は恐怖で体を震わせた。人形が私の体に巻き付き、次第に締め付けてきた。呼吸が苦しくなり、私は意識を失った。

目が覚めると、私はベッドの上にいた。全身に冷たい汗をかいていた。夢だったと気づいて、私は胸を撫で下ろしたが、心の中にはまだ恐怖が残っていた。

翌日、私は再び公園を訪れた。あの人形がまだあるのか確かめたかった。公園の隅に行くと、そこには何もなかった。人形も見当たらなかった。

「気のせいだったのか…」

私はそう思い、ベンチに腰を下ろした。空は再び五月晴れで、穏やかな風が吹いていた。私は空を見上げ、心を落ち着かせようとした。

その時、ふと視界の端に何かが見えた。空の上で何かが旋回していた。まるで鳥のように見えたが、形が異様だった。私は目を凝らして見つめたが、それが何なのか分からなかった。

「まさか…」

私は立ち上がり、視線を追った。旋回する影が次第に近づいてくる。バリバリという音が、遠くから聞こえてきた。

「バリバリ…」

その音が近づくにつれ、私は恐怖で足がすくんだ。あの日の人形が、再び私を追い詰めるように近づいてきた。

「やめて…」

私は呟いたが、声にならなかった。バリバリという音が耳に響き、私は目を閉じた。

その後、私は何も見なかった。ただ、五月晴れの空の下、風が吹き抜ける音が聞こえるだけだった。

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