ある日、私は古道具屋で不思議な瓶を見つけた。その瓶は透明で、中には何も入っていないように見えたが、どこか魅力的な雰囲気を持っていた。店主に尋ねると、「古いものだけど、特に価値はないよ。おまけに持って行っていい」と言われたので、私はその瓶を家に持ち帰った。
家に帰ると、私は瓶をテーブルに置き、しばらく眺めていた。なぜかその瓶に惹かれて、目が離せなかった。私は手に取って光にかざしてみたが、やはり何も見えなかった。中は空っぽだった。
「何が気になるんだろう…」
私は呟きながら、瓶を棚に置いた。その夜、私はベッドに入り、眠りについた。深夜、突然目が覚めた。部屋は真っ暗で、静まり返っていた。私は何が自分を目覚めさせたのか分からず、耳を澄ませたが、何も聞こえなかった。まるで無音の世界に閉じ込められたような感覚だった。
「おかしいな…」
私は再び眠ろうとしたが、不安が胸を締め付けた。何かが足りない気がする。何かが私の意識を引っ掻いているような感覚があった。私はベッドから出て、リビングに向かった。
部屋の中は無音のままだった。私はふと、あの瓶を思い出し、棚の方に目を向けた。瓶は静かにそこにあったが、まるで何かを語りかけているように感じられた。私はゆっくりと瓶に近づき、手に取った。
その瞬間、瓶の中から微かな音が聞こえたような気がした。私は耳を傾け、瓶を振ってみたが、何の音もしなかった。無音のままだ。私は瓶を見つめ続けたが、何も変わらなかった。
「気のせいか…」
私はそう思い、瓶を元の場所に戻そうとした。しかし、その時、瓶の中からかすかな声が聞こえた。
「せやねん…」
私は驚いて手を引っ込めた。確かに聞こえた、関西弁のような言葉だった。しかし、部屋の中には誰もいない。私は再び瓶を手に取り、耳を近づけた。
「せやねん…」
再び聞こえた。今度ははっきりと。まるで瓶の中に誰かがいて、私に話しかけているようだった。私は恐怖で瓶を置き、後ずさりした。
「これは一体…?」
私は震えながら部屋を見回したが、何も異常はなかった。ただ、瓶の中から微かな声が聞こえてくるだけだった。私は恐怖で身動きが取れず、ただ瓶を見つめていた。
その時、瓶の中の声が再び聞こえた。
「せやねん…せやねん…助けてくれ…」
私は息を呑んだ。声は次第に大きくなり、はっきりと聞こえるようになった。まるで瓶の中で何かが動いているかのように感じられた。私は瓶に近づき、中を覗き込んだ。
その瞬間、瓶の中で何かが動いた。黒い影のようなものが見え、まるで瓶の中から手が伸びてきたように感じた。私は驚いて瓶を落とし、割れる音が部屋中に響いた。
「せやねん…!」
声は急に大きくなり、部屋中に響き渡った。私は恐怖で叫び声を上げ、ドアを開けて外に飛び出した。外の空気が冷たく感じられ、私は震えながら立ち尽くした。
次の日、私は友人を呼んで、瓶のことを話した。友人は半信半疑だったが、私の話を聞いて興味を持ち、私と一緒に部屋に戻った。
しかし、部屋に戻ると、瓶は消えていた。割れたガラスの破片もなく、まるで最初から何もなかったかのようだった。私は困惑し、友人も戸惑っていた。
「気のせいだったのかもね」
友人はそう言ったが、私は納得できなかった。あの時の声が、今でも耳に残っていたからだ。
それ以来、私はあの瓶を見かけることはなかった。しかし、夜になると、時折耳を澄ませると無音の中に微かな声が聞こえることがある。
「せやねん…せやねん…」
その声が、何を意味しているのか、誰が話しかけているのか、答えは見つからない。あの瓶がどこに消えたのかも分からない。
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