私は古着が好きで、週末になるとよく古着屋を巡っていた。アンティークなものや、時代を感じさせる服に魅力を感じていて、新しいアイテムを探すのが楽しみだった。ある日、友人と一緒に街中の古着屋に立ち寄った。その店は、他の店と比べて少し薄暗く、独特の雰囲気が漂っていた。
「ここ、面白そうだね」
友人が笑顔で言った。私は店内を見回しながら頷いた。店の中には古い洋服やアクセサリーが所狭しと並んでいた。私はその中でも特に目を引くジャケットを見つけた。それは革製で、古びているが味があり、どこかミステリアスな雰囲気を持っていた。
「これ、いいかも」
私はジャケットを手に取り、試着室に向かった。試着室は狭く、古い鏡が壁にかかっていた。私はジャケットを羽織り、鏡の前に立った。サイズもぴったりで、なかなか格好良く見えた。
その時、ふと視界の端に何かが動いたような気がして、私は鏡の中をじっと見つめた。すると、鏡の中に奇妙なものが映っていた。私の肩の後ろに、逆さまの手が見えたのだ。手はまるで逆向きに生えているように見え、その指がゆっくりと動いていた。
「えっ…」
驚いて振り返ったが、試着室の中には誰もいなかった。私は混乱し、再び鏡を見たが、手は消えていた。気のせいかもしれないと思いながらも、心の中に不安が広がった。
ジャケットを脱ぎ、試着室を出ると、友人が待っていた。
「どうだった?良さそうじゃん!」
友人は笑顔で言ったが、私は曖昧に笑い返した。心の中で何かがおかしいと感じていた。私はジャケットを棚に戻し、他の服を見るふりをしながら、試着室の方をちらりと見た。
その時、店の奥から奇妙な音が聞こえてきた。
「ピューひょろ、ピューひょろ…」
細い笛のような音が店内に響いた。私は音の方を見たが、何も見えなかった。友人も音に気づいたらしく、不思議そうに辺りを見回していた。
「何だろう、この音…?」
友人が呟いた。私たちは音のする方へ歩いて行った。音は店の奥から聞こえてくるようで、奥にはさらに狭いスペースがあった。古いカーテンがかかっていて、その奥から音が漏れ出ていた。
「見てみようか…」
友人が言い、カーテンをそっと引いた。奥には小さな部屋があり、その中には古びたマネキンがいくつか立っていた。マネキンには色とりどりの古着が着せられていて、薄暗い照明が不気味な影を落としていた。
「何もないみたいだね」
友人は肩をすくめたが、私は何かに引き寄せられるように部屋の中に入った。すると、足元に何かが動くのが見えた。小さな人形のようなものが、床を這うように動いていた。
「何これ…」
私はしゃがみ込んで人形を見つめた。人形は古びていて、全体が逆さまの形をしていた。逆さまの手が動き、ピューひょろという音が再び響いた。私は恐怖で立ち上がり、人形から離れようとした。
その瞬間、人形が急に動き出し、私の足に巻き付いてきた。冷たい感触が足元を包み、私は悲鳴を上げた。友人も驚いて私の方を見たが、次の瞬間、人形は消えていた。
「どうしたの?」
友人が心配そうに尋ねたが、私は何も答えられなかった。足元には何もなく、ただ薄暗い部屋が広がっているだけだった。
「もう帰ろう…」
私は震える声で言い、友人と一緒に店を出た。外の空気が冷たく感じられ、私の心は不安でいっぱいだった。あの逆さまの手、人形、ピューひょろという音が頭から離れなかった。
その後、私はその古着屋には二度と行かなかった。
あの古着屋で見たものが現実だったのか、それとも私の妄想だったのか、真実は闇の中だ。
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