目玉から指

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ある夜、私は疲れ果てて家に帰ってきた。長い一日が終わり、心身ともにくたくたになっていた。家に帰ると、まずシャワーを浴び、軽い夕食を取ってからソファに倒れ込んだ。テレビをつけて、ぼんやりと画面を眺めていたが、何も頭に入ってこなかった。

いつの間にか、私はそのままソファで眠りについていた。ふと目を覚ますと、部屋の中は真っ暗で、時計は深夜の2時を指していた。テレビの画面は消えていて、部屋は静まり返っていた。

「もう寝ないと…」

私はぼんやりとつぶやき、立ち上がろうとしたその時、何か視線を感じた。誰かが私を見ている。そう感じて、私は辺りを見回した。暗い部屋の中には誰もいない。だが、確かに視線を感じた。

「気のせいか…」

そう自分に言い聞かせながら、私は部屋の電気をつけた。明かりがつくと、安心感が広がった。やはり誰もいない。ただの気のせいだったのだろうと、再びソファに腰を下ろした。

その時、再び視線を感じた。今度はもっと強く、まるで誰かが私のすぐそばにいるような感覚だった。私は背筋が寒くなり、周囲を見渡した。すると、ふと鏡が目に入った。

リビングの片隅に置かれた大きな鏡。私はその鏡を見つめた。鏡の中の自分がこちらを見返している。当たり前の光景だったが、なぜかその自分の目が、いつもと違って見えた。視線が、どこか他人のような、そんな感覚だった。

私は恐る恐る鏡に近づき、自分の顔を見つめた。目がどんどん大きく見開かれていく。まるで、目が何かを訴えているかのようだった。その時、私は自分の目の中に何かが動いているのを感じた。

「な、何だ…?」

私は驚いて目を擦ったが、何も変わらなかった。再び鏡を見ると、目の中で何かが蠢いているのが見えた。まるで何かが目の奥から外に出ようとしているかのように。

恐怖で固まりながら、私はその目を見つめ続けた。次の瞬間、目玉の中から白いものが現れた。それは、まるで指のようだった。細く、白い指が目の中から伸びてきた。

「嘘だ…こんなのありえない…」

私は震える声で呟いたが、指はさらに伸びてきた。目の中から第二関節が現れ、指先が震えるように動いていた。その光景に、私は恐怖で声も出せなくなった。

その時、もう一方の目からも指が伸びてきた。両目から伸びる指が、まるで何かを探るように動いていた。私はパニックになり、顔を洗おうと洗面所に駆け込んだ。

洗面所の鏡を見ると、そこには信じられない光景が広がっていた。両目から無数の指が伸びてきていて、その指が鏡の表面を触れようとしている。私は思わず鏡を叩き割った。破片が飛び散り、床に落ちた。

「やめてくれ…」

私は必死に目を擦り、何度も水で洗い流そうとしたが、指は消えなかった。むしろ、さらに多くの指が伸びてくるのが感じられた。私はその場に座り込み、ただ震えるしかなかった。

朝になり、私が目を覚ますと、すべてが静まり返っていた。洗面所の鏡は割れていて、床にはガラスの破片が散らばっていた。目の中の指は消えていたが、私の心には深い傷が残っていた。

それ以来、私は鏡を避けるようになった。自分の目を見るのが怖かった。あの日見た指が、再び現れるのではないかという恐怖が、私を支配している。目が何を見たのか、何を見せようとしていたのか、その答えは未だに分からない。

ただ、鏡を見るたびに、あの恐怖が蘇り、目の奥に何かが隠れているような気がするのだ。

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