白い輪郭

スポンサーリンク

それは、大学生の時に友人と一緒に夏のキャンプに行った時のことだった。私たちは山奥の湖の近くにテントを張り、昼間は泳いだり釣りをしたりして楽しんでいた。夜になると、焚き火を囲んでおしゃべりをしながら星を眺める、そんな穏やかな時間を過ごしていた。

ある夜、友人が怪談話をし始めた。皆で盛り上がっていたが、私は少し離れたところで湖の水面を見ていた。月明かりが水面に反射して、きらきらと光っていた。

「おい、どうしたんだ?何かいるのか?」

友人が私の後ろから声をかけた。私は振り返り、笑って首を振った。

「いや、何もないよ。ただ、湖がきれいだなと思って」

そう言いながら再び湖を見つめると、何かが視界に入った。水面に映る白いもの。それは、何かの輪郭のようだった。私は目を凝らしてその輪郭を見つめた。白い、ぼんやりとした形が湖の中に浮かんでいるように見えた。

「おい、あれ見てみろよ」

私は友人に声をかけ、その白い輪郭を指さした。友人も湖を見て、しばらく沈黙していた。

「何だあれ?人影か?」

友人がそう言うと、私たちはさらに近づいてみることにした。湖のほとりに立つと、その白い輪郭が少しずつはっきりと見えてきた。それは、まるで人間の頭の形をしているようだった。

「これは…」

私は足元の石を拾い、それを湖に向かって投げた。水面が波立ち、白い輪郭が一瞬消えたかと思うと、再び現れた。今度はもっとはっきりと、まるで水の中に誰かがいるかのように。

その時、私の頭皮に何か冷たいものが触れたような気がした。思わず手を頭にやると、何もなかったが、背筋が寒くなった。友人も同じように感じたのか、少し顔をこわばらせていた。

「ここ、気味が悪いな。戻ろうぜ」

友人の言葉に頷き、私たちは急いでその場を離れた。焚き火の明かりが見えるところまで戻ると、なんとか気持ちが落ち着いた。私は友人に「さっきのことは黙っておこう」と言った。キャンプの雰囲気を壊したくなかったからだ。

しかし、その夜、私はなかなか眠れなかった。テントの中で目を閉じても、あの白い輪郭が頭に浮かんでくる。湖の中に見えたそれは、まるで誰かがこちらを見ているようだった。

翌朝、湖のほとりを歩いていると、足元に何かが落ちているのを見つけた。拾い上げてみると、それは何かの髪の毛の束だった。濡れていて、手に触れると冷たい感触がした。頭皮にべったりとついていた髪の毛が、まるで何かの生き物の一部のように感じられた。

「おい、何だそれ?」

友人が驚いて声を上げたが、私はすぐにその髪の毛を地面に投げ捨てた。手のひらに冷たい感触が残っていて、吐き気を覚えた。

その後、私たちは早々にキャンプを切り上げることにした。湖の周りに何か不吉なものがあると感じたからだ。車に乗り込んで山を降りる途中、私は窓の外を見るのをやめられなかった。まるで何かが私たちを見送っているような、そんな気配を感じていた。

それ以来、私は湖に行くことがなくなった。あの日見た白い輪郭と、手に触れた髪の感触が今でも忘れられない。湖の水面には何が隠されていたのか。あの白い輪郭は何だったのか、答えは見つからない。ただ、一つ確かなのは、あの日の恐怖が今でも私を悩ませているということだ。

コメント

タイトルとURLをコピーしました