ぶむ

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ジム通いは私の日課だった。仕事のストレスを発散するために、毎日仕事が終わるとジムに直行し、ランニングマシンで汗を流すのが習慣だった。いつも行くジムは、大きな窓から街の景色が見える静かな場所で、夕方になると人も少なくなるため、気持ちよく運動できる。

ある日のことだった。その日もいつものようにジムに行き、ランニングマシンに乗って走り始めた。何度か息を整え、徐々に速度を上げていく。体が温まってきた頃、何かが妙なことに気づいた。遠くの方から、何か低い音が聞こえてくるのだ。

「ぶむぶぶ…ぶむぶぶ…」

最初は気のせいかと思ったが、その音は次第に大きくなっていった。まるで、何か重いものが近づいてくるような音。私はランニングマシンの速度を落とし、耳を澄ませた。

「ぶむぶぶ…ぶむぶぶ…」

音の出所を確かめようと、ジムの中を見回したが、他には誰もいなかった。トレーナーも姿を見せない。私は少し不安になり、ランニングを中断してシャワールームへ向かった。シャワーを浴びれば、気持ちも落ち着くだろうと思ったのだ。

シャワールームに入ると、そこはいつも通り静かだった。シャワーを浴びながら、私は先ほどの音のことを考えていた。もしかして、建物のどこかで工事をしているのかもしれない。しかし、その音はどこか不自然で、不気味だった。

シャワーを終え、ロッカールームで服を着替えていると、再びあの音が聞こえてきた。

「ぶむぶぶ…ぶむぶぶ…」

音はますます大きくなり、まるで耳元で響いているかのようだった。私は心臓がドキドキと高鳴るのを感じながら、音の方向を探した。音はシャワールームの奥から聞こえてくるようだった。私は恐る恐るシャワールームに戻り、音の方へと歩いていった。

シャワールームの奥にある扉を開けると、そこには暗い通路が続いていた。普段は使われていないメンテナンス用の通路だ。私は懐中電灯を取り出し、暗闇の中に光を向けた。通路の奥から、再びあの音が聞こえてくる。

「ぶむぶぶ…ぶむぶぶ…」

私は躊躇したが、好奇心に駆られ、通路の奥へと足を進めた。通路は狭く、壁には何か黒い汚れがついている。音はますます大きくなり、通路の先には古びた扉が見えた。私はその扉の前で立ち止まり、耳を澄ませた。

「ぶむぶぶ…ぶむぶぶ…」

音は確かに扉の向こうから聞こえてくる。私は深呼吸をして、扉のノブを回した。扉は重く、ギシギシと音を立てて開いた。中は真っ暗だったが、懐中電灯の光が何かを捉えた。それは巨大な影のようなものだった。

私は一瞬、息を呑んだ。影はゆっくりと動き、低い唸り声を上げた。次の瞬間、影の中から無数の目がこちらを見つめているのに気づいた。目は赤く光り、まるで私を飲み込もうとしているようだった。

「ぶむぶぶ…ぶむぶぶ…」

音が再び響き渡り、影が近づいてくる。私は恐怖で足がすくみ、その場に立ち尽くしていた。影はますます大きくなり、その姿がはっきりと見えた。それは、巨大な何かの集合体のようだった。無数の手足が蠢き、口からは黒い煙が漏れ出していた。

私は恐怖で叫び声を上げ、背を向けて走り出した。暗い通路を全力で駆け抜け、シャワールームに飛び込んだ。音はまだ耳元で響いている。振り返ると、影が通路の入口に迫ってきているのが見えた。

「ぶむぶぶ…ぶむぶぶ…」

私は叫びながらジムを飛び出し、外の街灯の下で息を切らして立ち止まった。振り返ると、ジムの入り口は静かで、音も影も何もなかった。

それ以来、私はあのジムには二度と足を踏み入れなかった。音の正体も影の存在も、今では知りたくない。あの「ぶむぶぶ」という不気味な音だけが、今でも耳の奥にこびりついている。

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