あばら骨ミルク

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私は田舎の小さな牧場で働いている。毎日、早朝から牛たちの世話をし、新鮮なミルクを搾るのが日課だ。牧場は静かで、周囲は広大な草原が広がっている。都会の喧騒から離れ、自然の中で過ごすことは私にとって安らぎだった。

ある日、いつも通り牛たちのミルクを搾っていると、一頭の牛が突然暴れ始めた。ミルクを搾るために固定していたが、急に落ち着きがなくなり、怖がるように鳴き始めたのだ。私は何とか牛を落ち着かせようとしたが、牛は止まらなかった。その時、牛の体が異様に痩せていることに気づいた。あばら骨が皮膚の下にくっきりと浮かび上がっている。

「おかしいな…いつも通り餌を与えているのに」

私は心配になり、牛の健康状態を調べた。しかし、他に異常は見当たらなかった。ただ、ミルクの量が減っているように感じた。何か気味が悪い感じがして、私はその日、牛たちの世話を終えると早めに帰宅した。

夜になっても、その牛の痩せた姿が頭から離れなかった。ミルクを搾る手触りがいつもと違う。あばら骨が皮膚の下に浮き出ている感触が、今でも指先に残っているようだった。眠れないままベッドに横たわっていると、突然、外で牛の鳴き声が聞こえた。

牧場は私の家から近い。夜中に牛が鳴くことは滅多にない。私は不安に駆られ、外に出て牧場に向かった。月明かりが牧場をぼんやりと照らし、牛たちは静かに佇んでいた。しかし、あの痩せた牛だけが、私の方をじっと見つめていた。

近づくと、その牛の目が暗闇の中で光っているのが分かった。まるで何かを訴えるように。私は牛に手を伸ばしたが、その瞬間、牛は急に後ずさりし、逃げるように歩き出した。牛の後を追うと、牧場の隅の古びた納屋にたどり着いた。

納屋の扉は錆びついており、普段は使っていない場所だ。しかし、牛はその前で立ち止まり、低い声で鳴いた。何かがここにあるのか?私は好奇心に駆られ、錆びた扉を開けた。中は暗く、ひんやりとしていた。懐中電灯を照らすと、床に何かが散らばっているのが見えた。

それは、骨だった。人間のあばら骨のように見える、白くて細長い骨が床一面に散らばっていた。私は息をのんだ。なぜこんなところに骨が?まるで誰かがここで何かを隠そうとしていたようだ。私は足元を見つめたまま、恐る恐る前に進んだ。

そして、奥の暗がりで何かが動いた。私はライトを向けた。そこには、痩せ細った人影があった。顔は影になって見えなかったが、その体はあばら骨が浮き出ているのがはっきりと分かった。まるで、あの牛のように。

「誰だ…お前は…」

私の声は震えていた。すると、その人影がゆっくりと振り向き、私に向かって歩き出した。彼の足元にはミルクのような白い液体が広がっていた。私の心臓は早鐘のように鳴り、背筋が凍りつくような感覚がした。ミルクは彼の足元から流れ出ている。

彼が近づくにつれて、私はその顔を見た。それは人間の顔ではなかった。目は空洞で、口は裂けており、何かを喉に詰まらせたように呻いていた。私は恐怖で動けなくなり、その場に立ち尽くしていた。

その時、彼が手を伸ばし、私の胸に触れた。冷たい感触が広がり、次の瞬間、私は意識を失った。

目が覚めた時、私は自分のベッドに横たわっていた。全身が痛み、呼吸が苦しかった。あばら骨が折れたような感覚がした。起き上がろうとすると、胸に何かが触れるのを感じた。恐る恐る手を伸ばすと、そこには白いミルクが染み込んだシャツがあった。

あの夜の出来事が夢だったのか現実だったのか、私は分からなかった。しかし、胸の痛みは消えず、毎晩夢にあの痩せた人影が現れるようになった。彼はいつもミルクに浸かりながら、私に近づいてくる。私はもう逃れられない。彼が求めているものが何なのか、私には分からないまま。

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