これは、少し前に起こった出来事だ。僕は今でも、そのときのことをはっきりと思い出す。週末に友人と一緒に郊外の湖に行った時のことだ。
湖は観光地としても有名で、夏にはキャンプや釣りを楽しむ人たちで賑わっている。僕たちは、湖の近くにあるキャンプ場に泊まることにした。湖のほとりには小さな木造のコテージがあり、そこで一泊する予定だった。
その日は天気も良く、昼間は湖で泳いだりボートに乗ったりして楽しんだ。夕方になると、湖の周りを散歩しようという話になった。湖は広く、夕陽が水面に反射して美しかった。僕たちは湖の周りの小道を歩きながら、景色を楽しんでいた。
少し歩いていると、湖の端に古びた木の桟橋が見えてきた。観光客向けの新しい桟橋ではなく、使われなくなって久しい様子だった。僕たちは面白半分でその桟橋に近づいてみた。
桟橋に立つと、湖の中央に小さな島が見えた。木々が生い茂り、誰も住んでいないようだった。友人が「ボートで行ってみようよ」と言い出したが、僕は少し躊躇していた。何か不安を感じたのだ。
その時、ふと足元を見ると、桟橋の下に何かが浮かんでいるのが見えた。水面に浮かぶ木の板のようなものだったが、よく見るとそれは古い木箱だった。友人が興味を持ち、木の棒を使ってその箱を引き上げた。
木箱は思ったよりも重く、僕たちは協力して桟橋の上に引き上げた。箱はかなり古く、表面には苔が生えていた。鍵がかかっているようなものはなく、簡単に開けることができた。箱の中には、古びたノートといくつかの写真が入っていた。
ノートを開くと、そこには何十年も前の出来事が記されていた。日付は1960年代のもので、内容はある一人の男の生活について書かれていた。その男は、この湖の近くに住んでいたらしい。ノートには、彼がこの湖での生活を楽しんでいたこと、そして時折島に渡っていたことが書かれていた。
しかし、ページをめくるうちに内容が不穏なものに変わっていった。男は、湖の島に何か奇妙なものを見つけたと書いていた。それは人間のような形をしていたが、決して人間ではなかったと。夜になるとその存在が彼を呼ぶようになり、次第にその声が彼の頭の中を支配するようになっていったという。
「これ、やばくないか?」
友人の声で、僕は現実に引き戻された。ノートを読んでいる間に、空はすっかり暗くなっていた。湖の周りは静かで、風が木々を揺らす音だけが響いていた。友人も僕も、何となく言葉を失っていた。
「これ、ただの作り話だよな?」
誰も答えなかった。写真には、ノートを書いたと思われる男が写っていた。彼は湖のほとりで微笑んでいたが、その笑顔はどこか無理矢理なものに見えた。僕たちは無言で箱を元に戻し、桟橋を離れた。
コテージに戻ると、他の友人たちがバーベキューの準備をしていた。僕たちはそのことを話すか迷ったが、結局何も言わなかった。夜が更けるにつれて、湖のことを忘れようとしたが、心のどこかに不安が残っていた。
その夜、寝ていると何かが耳元で囁くような気がした。はっきりとした声ではなかったが、確かに何かが僕を呼んでいるような気がした。目を覚まして周りを見渡したが、誰もいない。友人たちはみんな寝ている。
朝になり、僕たちは早めに湖を後にした。何かが違うと感じたが、具体的に何が違うのか説明できなかった。ただ、湖を去る時に振り返ると、島の方から誰かがこちらを見ているような気がした。
今でも、その湖のことを考えると、不安な気持ちになる。あの男が見つけた何かは一体何だったのか。ノートはただの作り話だったのか。それとも、あの湖には何かが本当に存在していたのか。答えは見つからないまま、僕の中でその謎は深まるばかりだ。
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