ひもヒモ紐紐

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田舎に住む祖母の家には、使われなくなった納屋があった。物心ついた頃からそこで遊ぶのが好きだったが、大人たちはいつも「あまり近づかないように」と注意していた。理由はよく分からなかったが、古くて危ないからだと聞かされていた。

ある日、小学校の夏休みで祖母の家に泊まりに行ったとき、友達のタケシと納屋の中を探検することになった。冒険気分で、懐中電灯を片手に古びた扉を開けると、埃っぽい空気が鼻を突いた。

中は意外と広く、農具や木箱が乱雑に置かれていた。そして、奥の天井近くから無数のヒモが垂れ下がっているのに気づいた。古い麻のヒモで、天井の梁にくくりつけられている。揺れているわけでもないのに、何か生き物のような不気味さを感じた。

タケシが冗談交じりに言った。
「なんだこれ。首吊り用のヒモか?」

冗談だと分かっていても、その言葉でますます気味が悪くなった。近づくのもためらわれたが、タケシが「引っ張ったらどうなるかな」と手を伸ばした。

「やめとけよ。」
そう言ったのに、タケシは意地でも一本のヒモを引っ張った。すると、まるで連鎖するように他のヒモも揺れ始めた。

その瞬間、頭上から「ヒモヒモヒモ……」という不気味な囁き声が聞こえた。最初は遠くからのように思えたが、次第に耳元に近づいてくる。

「おい、なんだよこれ……」
タケシも明らかに怯えた声で言った。僕たちは顔を見合わせ、すぐに納屋を飛び出した。

外に出ても、耳の奥にまだその声が残っている気がして、二人とも言葉を交わす余裕もなく家へ逃げ帰った。

その夜、タケシが祖母の家に泊まることになっていた。布団に入っても、昼間の出来事が頭を離れない。タケシは平気そうに振る舞っていたが、どこかそわそわしているようだった。

深夜、突然タケシが布団から起き上がった。「トイレに行ってくる」と言い残し、ふらふらと部屋を出ていった。そのまま戻らない。さすがに心配になり、僕も後を追った。

家の中には誰もいない。外に出ると、納屋の方からカタカタと扉が揺れる音が聞こえた。

恐る恐る納屋の中を覗くと、タケシが一本のヒモを握って立っていた。ぼんやりと天井を見上げている。ヒモの端はタケシの首に巻きついていた。

「やめろ!」
叫んで駆け寄ろうとした瞬間、足元に無数のヒモが絡みつき、動けなくなった。どこからともなく「ヒモヒモヒモ……」という声が響き渡る。

その後、どうやって家に戻ったのかは覚えていない。ただ、翌朝になるとタケシはどこにもいなかった。納屋にも、家にも。彼がいなくなったことを誰にも話せず、夏休みが終わると僕はその村を二度と訪れなくなった。

あのヒモは今でも、納屋の奥に垂れ下がっているのだろうか。そして、タケシはどこに――ヒモの先で何を見ていたのだろうか。

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