俺たちの学校には、決して触れてはいけないカセットテープがある。
古い木製の棚にぎっしりと詰まった、昔の学校行事の録音テープ。
その中の一つに、再生すると”声が増える”テープがあるのだという。
放送部の先輩たちは、皆それを知っているが、話すことはない。
ただ、部室に入ると、必ず棚の一番奥にしまってある赤いラベルのカセットテープには触れるな、と新入部員に言い聞かせる。
ある日の放課後、放送部の後輩がそのテープを見つけてしまった。
「これ、何ですか?」
俺はギクリとした。
赤いラベルに手書きで「3年2組 学級会」と書かれたそのカセット。
誰も説明しなかったが、部室にいる全員が緊張しているのが分かった。
だが、後輩はふざけて笑いながら言った。
「ちょっと聞いてみましょうよ」
止める間もなく、彼はテープをセットし、再生ボタンを押した。
――ザザザ……
最初はただのノイズ。
だが、次第に、ぼそぼそと人の声が聞こえてきた。
「……次の議題は……」
それは、学級会の音声だった。
生徒たちが真面目に意見を言い合い、教師がまとめていく。
普通の録音――のはずだった。
だが、途中から異変が起きた。
――ザザザ……クスクス……
ノイズの中に、笑い声が混じり始めた。
不気味な、低い笑い声。
そして、学級会の音声とは無関係に、誰かが話し始めた。
「……だれ……みてる……?」
後輩は慌てて停止ボタンを押したが、テープは止まらない。
――ガサガサ……クスクス……
「おい、止めろって!」
誰かが叫んだが、テープの声は続いた。
「……ここに、いる……」
「……だれか、きて……」
その声が次第に、俺たちの名前を呼び始めた。
「タカハシ、いる……」
「サトウ、いる……」
「――そして、俺の名前も呼ばれた。」
その瞬間、部室のスピーカーから音が消えた。
だが、今でも俺は聞こえる気がする。
廊下の端、放送室の前を通るたびに――
「……いる、まだ……きて……」
放送室から、声が呼んでいるのだ。
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