蔦地蔵

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小学生の頃のことです。
家の近くに蔦に覆われた地蔵があって、誰も近寄ろうとしない場所でした。大人たちは「地蔵さんは昔からそこにいる」と言うけれど、誰も手入れをしないから、まるで森に呑まれたように見えていました。

ある日、友達数人と肝試しをすることになったんです。
薄暗くなった頃、私はその地蔵の前に立ちました。
誰も近寄らない理由が、あの時、ようやくわかったんです。

蔦に絡まれた地蔵の顔が、ひび割れて、まるで笑っているように見えたんです。
それは笑顔なんかじゃない。
苦しそうで、叫んでいるような――そんな顔でした。

でも、動けなくなってしまって。
その時、地蔵から絡みついた蔦が、突然動き始めたんです。
蔦がするすると私の足に巻きついて、まるで引きずり込もうとするように締め付けてきた。

逃げようとしたけれど、次の瞬間、耳元で**「もう少しだ」**って、誰かが囁いたんです。
振り返っても、そこには誰もいない。ただ、地蔵の顔だけが、もっと歪んで笑っていた。

「助けて」なんて言う前に、私は倒れ込んで――気がついたら友人たちが泣きながら私を引っ張っていました。

その後、その地蔵はいつの間にか消えていました。
誰も撤去したなんて言わない。でも、その場所にはぽっかりと穴が開いていて、地面に沈んでいったような跡だけが残っていた。

いまだに、夢に見るんです。
あの地蔵の顔が…もっと歪んで笑って、こう言うんです。

**「もう少しだ」**って。

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