俺が子供の頃、近所の公園に変わった遊びがあった。
**「まぜっこ遊び」**と呼ばれていて、砂場の隅っこにみんなで集まり、土や砂をかき混ぜるだけの、単純な遊びだ。
ただ、その遊びには一つ、絶対のルールがあった。
「“まぜっこ人間”が来たら、すぐ逃げろ」
まぜっこ人間とは何か?
誰も正確には知らなかったけど、遊んでいる最中、知らない誰かが混ざり込んだら、それがまぜっこ人間だと言われていた。
子供たちはその話を半分怖がり、半分面白がっていた。
けれど、ある日、俺は本物のまぜっこ人間に会ってしまった。
その日も、俺たちはいつものように公園の砂場でまぜっこ遊びをしていた。
「どろんこ!」とか、「もぐら見つけた!」なんてはしゃぎながら、手で砂をかき混ぜていた。
その時、不意に誰かがこう言った。
「ねえ、今、誰か増えてない?」
俺たちは顔を見合わせた。
「……え?」
最初は6人で遊んでいたはずなのに、いつの間にか7人目がいた。
顔はうつむいていて、泥だらけの手で砂をまぜている。
誰もそいつを見た覚えがなかった。
「……誰?」
誰かが尋ねたが、そいつは顔を上げなかった。
ただ、手を止めることなく、ずっと砂をまぜている。
その手つきが気味悪く、俺たちは一斉に後ずさった。
「まぜっこ人間だ!」
誰かが叫んだ瞬間、俺たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。
だけど――逃げながら、ふと振り返ってしまったんだ。
そしたら、そいつがゆっくりと顔を上げた。
そいつの顔は……誰かの顔を“混ぜた”ような顔だった。
子供の顔、大人の顔、男の顔、女の顔――
全部が、ぐちゃぐちゃに混じっている。
目が二つあるはずなのに、三つあるように見えた。
口が一つあるはずなのに、二つ、いや、それ以上に裂けている。
まるで、いろんな人のパーツを無理やりかき混ぜたような顔だ。
「混ぜてる……」
俺は気づいた。
あいつは、砂だけじゃなく、人間そのものを混ぜて作っているんだと。
それから数日後、まぜっこ遊びをしていたタカシが、急に学校に来なくなった。
先生に聞いても「引っ越した」としか教えてくれない。
だけど、近所の誰も、タカシの引っ越しなんて知らなかった。
それからというもの、公園でまぜっこ遊びをする子供はいなくなった。
誰もが「まぜっこ人間」に連れて行かれるのを恐れたんだ。
でも――俺は気づいてしまった。
砂場の隅に行くと、まだ誰かが砂を混ぜている音が聞こえる。
ザッ……ザッ……ザッ……
誰もいないはずの砂場から、混ぜる音が絶え間なく響いている。
ある日、俺はたまらなくなって、公園に行ってみた。
誰もいないはずの砂場に――
**二人の“まぜっこ人間”**がいた。
一人は、あの日見た奴。
もう一人は、タカシの顔を混ぜたような人間だった。
二人は、ゆっくりと砂を混ぜている。
まるで、新しい顔を作っているように。
そして俺の方を向き、二人が同時に言った。
「混ぜよう」
それ以来、俺はもう公園には近づいていない。
けれど――夜になると、どこからかあの音が聞こえるんだ。
ザッ……ザッ……ザッ……
まぜる音。
たまに、誰かが話しかけてくる。
「次はお前の番だ。混ざれ」
俺は絶対に答えない。
でも、もし君が公園で誰か知らない人と遊ぶことがあったら――気をつけろ。
そいつが、まぜっこ人間じゃないとは限らないから。
顔が、少しでも変じゃないか、よく確かめるんだ。
そして、逃げるならすぐ逃げろ。
混ぜられたら、もう二度と元には戻れない。
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