壁から出ていた首

スポンサーリンク

それが起きたのは、友人の家に泊まりに行ったときだった。あの日、夜遅くまでゲームをして遊んで、結局、リビングで布団を敷いて寝ることになったんだ。友人の家は古いけど広くて、どこか薄暗い雰囲気があった。特に夜になると、壁紙の剥がれたところや、古びた家具が妙に不気味に見えた。

その夜、みんなで寝ようとして電気を消した瞬間だった。薄暗いリビングの隅、壁の方に違和感を感じたんだ。最初は気のせいかと思ったけど、目が慣れるにつれてそれがはっきりと見えてきた。

壁の表面が、何かおかしい。少し膨らんでいるように見える。そして、その膨らみの中心から、何かがゆっくりと出てきた。それは――首だった。人間の首が、壁の中からにゅるりと突き出してきたんだ。

首は顔をこちらに向けていて、目は閉じたままだった。髪は濡れているように見えて、頬はやけに白かった。まるで呼吸をしているように、わずかに動いている。

声を出そうとしたけど、喉が詰まって声にならなかった。布団の中で硬直して、ただそれを見つめるしかなかった。友人も気づいたらしく、小さな声で「な、何だあれ……?」と呟いた。その声に反応するように、首が目を開けたんだ。

目が開いた瞬間、俺たちは同時に跳ね起きた。そして、何も考えずに部屋を飛び出した。友人の両親の寝室まで駆け込んで、訳もわからず「壁に!首が!」と叫んだ。友人の父親が懐中電灯を持ってリビングに戻ったけど、そこには何もなかった。ただ、壁のその部分には、湿ったような跡が残っていた。

その後、友人の両親は「大人をからおうとして~」と僕らがふざけているだけだと考え、取り合わなかったけど、俺たち二人が見たものは同じだった。そして、あのとき開いた目が、俺たちをじっと見つめていたことも。

友人は後日、その壁の裏がどうなっているのか気になって調べたらしい。でも、そこはただの空間で、特に何もなかったと言ってた。けど、あの湿った跡だけは、何日経っても消えなかったそうだ。

あれが何だったのか、今でもわからない。ただ、あのときの冷たい視線と湿った空気の感触は、今も肌に残っている気がする。

コメント

タイトルとURLをコピーしました