木のうろ

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その大木は学校の裏山にあった。樹齢何百年にもなるような太い幹で、上を見上げると枝が空を覆っていて、昼間でも薄暗いほどだった。幹の途中には大きなうろが空いていて、まるで口を開けているように見えた。子供の頃、あのうろの中には「何か」がいるって噂があったよな。

俺たちは放課後、友人と一緒にその木の周りで遊んでた。虫取り網を持った友人が、突然そのうろの前で立ち止まって「これ、入れるんじゃないか?」と言ったんだ。俺は冗談だと思ったけど、友人の目は本気だった。

うろの中は、外から見ても真っ暗で何も見えなかった。ただ、近づくとひんやりした空気が流れ出していて、夏なのに妙に寒気を感じたんだ。それに加えて、どこからか湿った土の匂いが漂ってきた。

「やめておいた方がいいんじゃないか?」と俺は言ったけど、友人は笑いながら「ちょっとだけ見てみる」と言って、身を屈めてうろの中を覗き込んだ。

そのときだ。友人が急に固まって、後ずさりしながら尻もちをついた。顔は真っ青で、何か言おうとしても声にならなかった。俺は慌てて友人に駆け寄って、「どうしたんだ?」と聞いたけど、彼はただ震える手でうろを指差すだけだった。

俺も恐る恐るうろの中を覗いてみたけど、暗くて何も見えなかった。ただ、視線を奥に向けると、目の端で何かが動いたような気がしたんだ。生き物じゃない、もっと得体の知れない「何か」だった。

その日はそれ以上近づかず、友人を連れてすぐにその場を離れた。友人はその後もしばらく何も話そうとしなかったけど、数日後にぽつりと「何かの目が見えた」とだけ言ったんだ。

その木は、俺たちが卒業する頃に伐採されてしまった。うろが危険だという理由だったけど、伐採した人たちが「木の中から何か変なものが出てきた」と言ってたって噂もあった。真偽はわからないけど、あの木には何かが宿っていたような気がしてならない。

もしあのとき友人がうろの中に入っていたら――想像するだけでぞっとするよ。

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