誰かに話せ

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僕は大学で歴史学を専攻していて、特に古文書の解読に興味を持っていた。ある日、教授から「大学の資料室に眠っている古い文書を調べてほしい」と依頼されたんだ。資料室は普段あまり使われていない場所で、大学の一番奥まった建物の地下にある。

その日は授業が終わった後、夕方になってから資料室に向かった。資料室に入ると、そこは薄暗く、古い本や紙の匂いが充満していた。棚には年代物の本がぎっしり詰まっていて、どれも埃をかぶっていた。指定された文書は、棚の一番奥にひっそりと保管されていた。

その文書は古びた巻物で、文字はほとんど消えかけていたが、かすかに読み取れる部分があった。内容は不気味な呪いの儀式に関するもので、読み進めるうちに妙な寒気を感じた。ページをめくるたびに、何か得体の知れない力がそこに宿っているような気がしたんだ。

その時、不意に資料室の電気がチカチカと点滅し始めた。僕は急いで文書を元の場所に戻し、資料室を出ようとしたけど、扉が開かない。なんとか力を入れて開けようとしたけど、まるで誰かが反対側から押さえているかのようにびくともしなかった。

焦り始めたその時、背後からかすかな声が聞こえたんだ。振り返ると、誰もいないはずの資料室の奥から、何かがこちらに近づいてくる気配があった。薄暗い室内に、微かな足音が響いていた。

その足音がだんだん大きくなり、近づいてくる。心臓がバクバクと音を立て、呼吸が浅くなった。恐怖で固まったまま、僕は目を閉じて、必死に足音が過ぎ去るのを祈った。でも、足音は止まらなかった。僕のすぐ後ろまで来ると、突然ぴたりと止まったんだ。

恐る恐る振り返ってみると、そこには誰もいなかった。ただ、資料室の一番奥の棚に置かれた古文書が、不自然に動いているのが見えた。まるでそれが生き物のように、少しずつ位置を変えていたんだ。

「やばい」と思って、もう一度扉を開けようとした瞬間、今度は頭の中に直接声が響いてきた。

「読み続けろ…」

それはまるで、何かが僕に命令しているような、抗いがたい力を持った声だった。恐怖に駆られながらも、僕は再び文書を取り出し、続きのページを開いた。ページをめくるごとに、その声はどんどん大きくなり、内容もますます不気味さを増していった。

最後のページにたどり着いた時、突然資料室の扉が勢いよく開いた。全身に鳥肌が立つ感覚を覚えながら、僕はその場から逃げ出した。走って建物を飛び出し、大学の外まで出ると、ようやく息をつくことができた。

その後、あの古文書のことは誰にも話さなかった。教授にも「何も特別なことはなかった」と嘘をついて報告を終えた。だけど、あの文書の最後のページに書かれていた言葉が、今でも頭から離れないんだ。

「誰かに話せ」

それからというもの、僕は資料室の前を通るたびに、あの足音と声が頭にこびりついて離れない。大学を卒業した今でも、何かが僕を見ているような気がしてならないんだ。

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