白い子供達

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中学生の頃のある夏の日、僕たちの町で奇妙な噂が広まり始めました。それは、「白い子供たち」が夜になると現れるという話でした。

最初にその話を耳にしたのは、クラスメイトのA君が「昨日、うちの近くの公園で変なものを見た」と言った時でした。A君によれば、夜にふと窓の外を見たとき、真っ白な子供が公園のブランコに座っていたそうです。白というのは、服が白いのではなく、肌も髪も目も全身が淡い白だったと言います。

「夜の暗闇の中でぼんやり光ってるみたいに見えてさ…で、こっちをじっと見てたんだよ。怖くて布団かぶって寝たけど、朝になってもまだブランコが揺れてたんだ」

それを聞いて僕たちは大笑いしました。「白い子供なんて幽霊みたいな話、誰も信じないよ」と茶化したけれど、その後も似たような話が次々と出てきたんです。

町中のあちこちで「白い子供を見た」という目撃談が増えました。学校の帰り道、橋の上、神社の境内、そして誰かの家の庭。どの証言でも共通していたのは、その子供たちが必ず無言で佇んでいること、そしてじっとこちらを見つめているということでした。

ある夜、僕と友人たちはその「白い子供」を確かめようと、地元で有名な噂の場所、廃墟になった古い工場へ向かいました。懐中電灯を持ち寄り、笑いながら工場の敷地内に入りました。工場は錆びた鉄骨が剥き出しになり、壁にはツタが絡まっていました。足元にはガラスの破片が散らばっていて、歩くたびに音を立てます。

最初は何もいませんでした。ただの廃墟だ、やっぱり噂なんて嘘だ、と誰かが言った時です――

「ねえ、あれ……」

友人の一人が震える声で指差しました。工場の奥の影の中に、何かがいるのが見えました。白い小さな姿。僕たちは息を飲みました。確かに子供のような体型をしたものが、暗闇の中でぼんやりと白く浮かび上がっていました。

その時、影の奥から別の「白い子供」が歩いてきたのです。一人、また一人。そして、それは止まらずに増え続けました。最初は二、三人だったのが、気づけば十人以上の白い子供たちがこちらを取り囲むように立っていました。

どの子も無表情で、目だけが黒く、虚ろな光を放っていました。誰一人声を発することはなく、ただじっと僕たちを見つめていました。恐怖で足がすくんで動けなくなり、僕たちはただその場に立ち尽くしていました。

ふいに、一人の子供が口を開けました。その口の中は真っ黒で、そこから聞こえてきたのは声ではなく、どこか遠くから響くような風の音でした。その音を皮切りに、他の子供たちも次々と口を開け、同じ黒い闇を見せました。

「帰ろう!」誰かが叫び、それで我に返った僕たちは一斉に走り出しました。工場の外へ出て振り返ると、子供たちは追いかけては来ませんでした。ただ、工場の中で同じ場所に立ったまま、じっとこちらを見つめているだけでした。

次の日、学校ではまた噂が広がっていました。僕たちはその夜のことを誰にも話しませんでしたが、心の中では確信していました。あの「白い子供たち」は本当に存在する。そして、なぜか分かりませんが、町の人々にじっと何かを訴えかけているのです。

その後も目撃談は増え続けましたが、僕たちは二度と白い子供たちを確かめに行こうとは思いませんでした。あれが何だったのか、今でも分かりません。ただ、あの黒い口の中にあった「何か」を、もう一度見る勇気はありません。

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