あの図書館に二人で行った日のこと、少しばかり奇妙だった。
夏休みの終わりも近づいてきたころで、私は友人と一緒に課題を片付けるために図書館に向かった。地元では少し有名な古い図書館で、外観は歴史ある洋館のようだった。夏の日差しが強かったせいか、建物の中はひんやりとしていて、まるで時間が止まったような静けさが漂っていた。
私たちはいつものように参考書を探して本棚を巡っていたが、途中で友人がふと足を止めた。目線の先には、天井まで届きそうなほど高い書棚がそびえていた。本棚の隙間から薄暗い光が差し込み、その奥に続く廊下が何とも言えない不気味な雰囲気を醸し出していた。
「ここ、行ってみようか。」
友人が言うなり、私は躊躇しつつも彼に続いた。廊下を進むたびに空気が変わるのが分かった。冷たさが増していくというか、音のない静けさが重たくのしかかるというか。やがて、廊下の突き当たりに、小さな扉が見えた。
「こんなところに部屋があったっけ?」
友人が手を伸ばし、その扉を開ける。ぎいっと音を立てて扉が開くと、中には円形の小部屋があり、壁一面に本が並べられていた。その中央に古びた机と椅子がぽつんと置かれていた。机の上には、開かれたままの大きな本が一冊だけ載っていた。
興味を引かれた私たちはその本に近づいた。内容は読めそうで読めない、不思議な文字がびっしりと書かれていた。外国語でもない、何か古い記号のようなものが並んでいる。友人がそれを指でなぞると、不意に部屋全体が薄暗くなった。
「……これ、やばいかも。」
友人がそう呟いたとき、背後から何かが動く音がした。振り返ると、誰もいない。ただ、どこからともなく囁き声のようなものが聞こえてきた。それは最初、単なる風の音かと思ったが、次第にはっきりとしてきた。
「読んではいけない……戻れ……」
友人と私は無言のまま顔を見合わせ、部屋を飛び出した。廊下を駆け抜け、元の明るい図書館のスペースに戻ったとき、ようやく息ができたような気がした。振り返ると、あの廊下も扉も消えていて、そこにはただ普通の書棚があるだけだった。
その後、二人で何とか課題を終わらせたものの、誰もその部屋のことについて触れることはなかった。図書館の話題が出るたびに、友人も私もあの日のことを思い出してしまうのだが、誰も信じてくれる気はしない。それでも確かに、あの本に触れた瞬間、何かが起きたのは事実だった。
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