それは、忘れもしない出来事でした。あの日も雪が降っていて、街全体が静まり返っていました。学校が臨時休校になり、私は自宅で過ごしていたのですが、昼過ぎに用事があって近所の公園まで出かけたのです。
その公園は、普段は子供たちが遊んでいる声で賑やかな場所ですが、その日は雪のせいか誰もいないように見えました。遠くから聞こえるのは、風の音と、木々の間で揺れる枝がこすれる音だけ。けれど、雪道を踏みしめて公園に近づくにつれて、妙な音が耳に届いてきました。何かがぶつかり合う、鈍くて湿った音でした。
公園に入ると、その音の正体がわかりました。そこには子供たちが数人、サッカーをしているのが見えたのです。でも、何かがおかしい。彼らの姿がどこか薄暗く、光の反射を吸い込むような違和感がありました。よく目を凝らして見ると、彼らが蹴り合っていたものは普通のボールではありませんでした。
それは、黒い首でした。まるで煤で汚れたような黒い首が、彼らの足元で転がされていたのです。髪もなければ表情もなく、ただ黒々とした肌が雪の白さの中で際立っていました。子供たちは無邪気に笑いながら、その首を蹴り、追いかけ、転がして遊んでいました。
声をかけるべきか迷いましたが、どうしても体が動きませんでした。何かに睨まれているような感覚で、ただ立ち尽くすしかありませんでした。やがて、子供たちのうちの一人が私に気づいたのか、こちらを向きました。その瞬間、私は息が詰まる思いをしました。
その子の顔は、まるで大人のように深い皺が刻まれ、目の奥にはどす黒い何かが渦巻いているように見えました。子供の顔ではなかったのです。彼は私をじっと見つめ、ゆっくりと黒い首を拾い上げると、まるでボールを見せつけるように持ち上げました。その手が首の肌に触れた瞬間、首が僅かに震えたのを見てしまったのです。
私はその場から逃げ出しました。振り返ることもできず、ただ一心不乱に雪道を走り抜けました。家に戻ったあと、窓から公園の方を見ても、もう何も見えませんでした。子供たちも、あの黒い首も。あれが一体何だったのか、今でもわかりません。ただ、あの日の出来事は、私の記憶からどうしても消えてくれないのです。
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