海辺の家族

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去年の夏、久しぶりに海へ行った時のことです。都会の喧騒から逃れるように選んだ小さな漁村。そこには観光地の華やかさはなく、静かでどこか懐かしい風景が広がっていました。

到着した日は快晴で、青い空と海が一面に広がり、心地よい波音が耳に響いていました。昼間は観光客も少なく、のんびりと散歩するのにちょうどいい日でした。けれど、その日の夕方から、何か奇妙なものを感じ始めました。

日が沈む頃、浜辺を歩いていると、遠くに家族連れが見えました。母親らしき女性と小さな子供たち、そして父親らしき男性の四人組。彼らは夕陽を背にして、海に向かって手を振っているようでした。楽しそうに声を上げながら、何かを呼ぶようなしぐさをしていました。

少し気になり、距離を詰めようと歩き出しましたが、なぜかその家族との距離は縮まらず、彼らは同じ場所にいるのに、近づくと遠ざかるように感じました。それでも諦めずに近づこうとした瞬間、子供の一人がこちらを振り返りました。

その顔が――異様だったのです。

目が異様に大きく、顔のパーツがわずかに歪んで見える。その子供の顔を見た瞬間、私はなぜか全身に鳥肌が立ちました。思わず足を止めると、家族全員が一斉にこちらを振り向きました。彼らの顔は全て同じ――目の大きな、歪んだ顔でした。

怖くなり、その場から走って宿に戻りました。途中で振り返ると、彼らの姿はもう見えなくなっていました。しかし、翌朝宿の人に聞いてみると、この辺りにそんな家族はいないと言うのです。

さらに気になり、村の古い写真を見せてもらうと――そこに写っていたのは、あの家族でした。漁に出て命を落とした一家として知られる人たち。写真を見た瞬間、私は浜辺で見た光景が現実だったのか、それとも何かに呼ばれたのか、考えずにはいられませんでした。

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