雪の晩

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あの夜、私は大学時代の友人の通夜に出席していました。彼は突然の事故で亡くなり、まだ二十代だった私たちにとって、死というものが初めて身近に感じられた出来事でした。静かな葬儀場で手を合わせながら、私は胸の中に大きな喪失感を抱えていました。

通夜が終わり、外に出ると、雪がしんしんと降り続いていました。誰かが「明日も雪だな」と呟いた声が耳に残っています。私は電車の時間を待つために、最寄り駅近くのベンチに座っていました。寒さが骨に染みるような夜でしたが、不思議とその冷たさは気になりませんでした。

ふと目を上げると、駅の向こう側の街灯の下に、一人の女性が立っていました。長いコートを着ていて、雪の中でじっと動かず、どこか寂しげな雰囲気をまとっていました。顔まではよく見えませんでしたが、その佇まいに、なぜか目を離すことができませんでした。

「誰だろう……?」

ぼんやりとそう思いながら見つめていると、その女性がゆっくりとこちらに顔を向けました。その瞬間、心臓が止まりそうになりました。彼女の顔は、あまりにも冷たく、そしてどこか虚ろだったのです。まるで感情というものが完全に欠落しているかのような顔でした。

そして、驚いたことに、その女性は私の亡くなった友人の名を呼んだのです。

「……〇〇くん……」

小さな声でしたが、雪の静寂の中でそれははっきりと聞こえました。その名を聞いた瞬間、全身に鳥肌が立ちました。彼女は再び口を開きました。

「帰ってきて……」

その言葉を最後に、彼女の姿はすっと街灯の明かりから消えるように消えてしまいました。

私は何もできず、ただ凍りついたまま座り続けました。翌日、友人の家族から聞いた話では、その女性は友人の元恋人だったそうです。彼女もまた、何年も前に自ら命を絶っていたと。

あの夜、雪の降る晩に私が見たものは一体何だったのでしょうか。彼女の魂が友人を迎えに来たのか、それとも私の心が作り出した幻だったのか。それを知る術はありません。ただ、今でも雪が降る静かな夜になると、あの彼女の虚ろな顔を思い出し、胸が締め付けられるような気持ちになります。

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