ばぁーか星人

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その話が流行ったのは、私が中学2年生の頃。クラスの一部で「ばぁーか星人」という奇妙な噂が話題になっていました。その名の通り、会った人に「ばぁーか」と言うだけの化け物で、深夜の街角や学校の廊下に現れるとされていました。

ただの子供じみた悪ふざけだと思っていた私たちの前に、ある日、クラスメイトの裕子がその話を真剣に語り始めました。裕子は、いつもは冗談ばかり言う子でしたが、その時はどこか様子が違いました。

「私、本当に見たんだって……ばぁーか星人を。」

放課後の教室に、裕子の言葉が重々しく響きました。半信半疑の私たちは、彼女の語る「遭遇の話」に耳を傾けました。

裕子がその「ばぁーか星人」に会ったのは、夏休み中のある夜。彼女は塾帰りで、自転車に乗って暗い裏道を通っていたそうです。周りは人気がなく、街灯もまばら。漕ぎながら、なぜか背後から視線を感じたと言います。

「最初は気のせいだと思った。でも、だんだんとその視線が強くなっていって……。振り返る勇気なんてなくて、ただ漕ぐスピードを上げたの。でも、あの時、気づくべきじゃなかったんだ。」

彼女が振り返った時、街灯の下に立つ奇妙な影が見えたそうです。その姿は一見、人間のようでした。けれども、何かが違う。顔がやたらと大きく、目が細長く裂けており、笑っているような口元が、異様に横に広がっていたと言います。

その影が、ゆっくりと自分の方に歩いてくる。それも、足元が見えないように、ふわりと浮かぶようにして。

「その時、そいつが私を見て……こう言ったの。」

裕子は声を潜めました。

「ばぁーか……って。」

耳をつんざくほど大きな声ではなく、むしろ抑えたトーンだったそうです。でも、その声が頭の中に直接響くようで、全身が凍りついたと言います。

怖くなった裕子は自転車を全力で漕ぎ出しました。けれども、どれだけ走っても、背後から「ばぁーか」という声が聞こえ続けたそうです。それが耳元で囁くようになった時、とうとう耐えられなくなり、自転車を放り出して家まで走ったとのこと。

「でも、それだけじゃ終わらなかったの……。」

裕子の話によれば、その夜、部屋で寝ていると、窓の外から再び「ばぁーか」という声が聞こえたそうです。恐る恐るカーテンを少しだけ開けると、そこには街灯の下と同じ影が立っていたのだとか。

「そいつがね、窓越しにこう言ったんだ。『次はお前が仲間だ』って。」

裕子の話にクラス全員が震え上がり、それ以来、「ばぁーか星人」の噂は学校中に広まりました。誰もが塾帰りや夜道に怯え、少しの音や影に敏感になりました。でも、裕子が話した「ばぁーか星人」が本物だったのか、ただの作り話だったのか……誰にも分かりません。

けれども、今でも夜道で「ばぁーか」と呼ばれる声を聞いたら、振り返らない方がいい。そう言い伝えられています。

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