ダムの底と雷

俺の故郷には、かつて小さな村があった。しかし、数十年前、その村はダム建設のために湖底に沈んだ。村は完全に消滅し、今ではその上に広がる静かな湖しか残っていない。

夏のある日、俺は友達とダムの近くに行った。その日は雷雨が予報されていたが、俺たちは気にせず遊び続けた。午後になると、空が暗くなり、雷が鳴り始めた。俺たちは急いで帰ろうとしたが、湖の水面に奇妙な光が見えた。

「何だろう？」友達の一人が言った。俺たちは不安を感じながらも、湖のほとりに近づいた。すると、雷が湖に落ちた瞬間、ダムの底からまるで響くような音が聞こえてきた。

「地下から何か…聞こえるぞ」と俺は言った。その音はまるで遠くで誰かが叫んでいるかのようだった。俺たちは恐怖で立ち尽くしていたが、次の瞬間、また雷が湖に落ちた。

すると、水面がざわめき、まるで何かが浮かび上がってくるかのように波が立った。俺たちは後ずさりしながら、その光景を見つめていた。そして、波の合間から何かが見えた。昔の村の建物のような影だった。

「嘘だろ…」友達の一人がつぶやいた。その影は次第にはっきりと見え、まるで村全体が水中から現れたかのようだった。

突然、雷が再び鳴り響き、その音と共に村の影は消えた。湖面は再び静まり返り、ただの水が広がっているだけだった。しかし、俺たちは知っていた。あの雷がダムの底に眠る村を呼び覚ましたのだと。

その日以来、俺は雷の音を聞くたびに、あの村の影が再び現れるのではないかと不安になる。ダムの底には、まだ何かが眠っているのかもしれない。