あれは夏の終わり頃、夜中にふと目が覚めた時のことでした。暑さのせいか、窓を開け放して寝ていたせいか、外からかすかに「ざわざわ」という音が聞こえてきたんです。最初は風で木々が揺れる音だと思っていました。でも、それにしてはリズムが妙に規則的で、耳を澄ませると、どうも人の話し声のように感じられました。
時計を見ると、夜中の2時を過ぎた頃でした。こんな時間に誰が話しているのか不思議に思い、私は好奇心に駆られて窓際に近づきました。そしてカーテンを少しだけ開けて外を覗いたんです。
月明かりの下、私の家の前の道を何人もの人影が歩いていました。それも、まるで何かの行列のように列をなして。服装は暗くてはっきりとは見えませんでしたが、着物のようなものを着ているように見えました。中には笠を被った人もいて、歩幅も揃っている。それが異様に静かで、ただ足音だけが「サッ、サッ」という音を立てていました。
妙なことに、誰も声を上げることはなく、ただ低い呟きのような音が響いていました。それは言葉ではなく、風に流れる音のようなものでした。でも、聞いていると、まるで何かを繰り返し唱えているようにも感じました。
私は怖くなり、カーテンを閉じようとしました。でも、その時、行列の中の一人――笠を被った人物が、ふとこちらを向いた気がしたんです。顔は見えませんでした。ただ、その仕草だけが確かに「こちらを見た」とわかるものでした。
その瞬間、胸がざわめき、心臓が跳ね上がるのを感じました。急いでカーテンを閉め、布団に潜り込んで震えていました。それ以上見る勇気はありませんでした。
翌朝、家族に話しましたが、誰もそんなものは見ていないと言います。夜中にそんな行列が通ったなら、犬が吠えるはずだと父は笑いました。でも、あの時の足音も、呟きも、そしてあの視線のようなものも、すべてが私には現実のものとして感じられたんです。
あの行列は何だったのでしょう。ただの夢だったのか、あるいは私にしか見えない何かだったのか。それ以来、夜中にふと目を覚ましても、二度と窓の外を見ることはありません。あの視線が、また私を見つけてしまうような気がして……。
コメント