他人の秘密基地

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その空き地を見つけたのは、夕方近くのことだった。友人と二人で川遊びの帰り道、木々に囲まれた小道を歩いていると、茂みの間からぽっかりと開けた場所が見えた。そこには、明らかに人の手が入った跡があった。組み合わせた木材で作られた簡素な小屋、地面には空き缶や古びたマットが散乱していて、誰かがここを使っているのが明らかだった。

「すごい、誰かの秘密基地みたいだな。」
友人が興味津々で近づいていく。私もその後を追ったが、どこか嫌な予感がしていた。

小屋の中に入ると、さらに異様な空気を感じた。壁には色褪せた新聞や謎めいたメモが貼られ、古い写真がいくつも吊り下げられていた。その写真には、知らない人々が写っていたが、なぜか全員の顔が焼け焦げていた。

「これ、なんだと思う?」
友人が手に取ったのは、古びたノートだった。中を開くと、そこには乱雑な文字で奇妙な内容が書かれていた。
「見つけたやつは、帰さない。」
その文字を見た瞬間、私は背中に冷たい汗が流れるのを感じた。

その時だ――遠くから、足音が聞こえてきたのは。茂みをかき分ける音と、低いうなり声が近づいてくる。友人と顔を見合わせ、ノートをそっと元の場所に戻すと、静かに外へ出た。

しかし、足音は確実にこちらに向かってきている。小屋の影に身を潜めながら、音の主を探ると、現れたのは見知らぬ男だった。体格が大きく、手には錆びついたナイフのようなものを握っていた。その目は異常なほどぎらぎらしていて、明らかに正常ではなかった。

「……誰だ?」
男の低い声が響く。私たちは息を殺し、動けずにいた。しかし、友人の足元の枝が小さく折れる音がしてしまい、男の目がこちらに向けられた。

「いるのか?!」
男が叫び、小屋に近づいてくる。私たちは反射的に走り出した。木々をかき分けながら、ただ無我夢中で逃げた。後ろからは男の荒い息遣いと足音が追ってきた。

幸い、足場が悪かったのか、男は途中でつまずき、追跡は途切れた。私たちは何とか無事に道に戻り、息を切らしながら振り返った。男は見えなくなっていたが、あの基地の方角から視線を感じた。

それ以降、あの空き地には二度と近づかなかった。

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