それは、大学生の頃、友人たちと車で旅行に出かけたときのことです。行き先は関西方面。東京から車で向かうため、深夜に出発して東名高速を走っていました。
運転をしていたのは友人のひとりで、他のメンバーは交代で仮眠を取っていました。僕は助手席に座っていて、運転手の友人と深夜ラジオを聞きながら、ぼんやりと話していました。
午前2時を少し回った頃、車内の誰かが「そろそろトイレ休憩を取ろう」と言い出し、近くのパーキングエリアに寄ることになりました。そのエリアは、静岡県内にある小さな場所で、周囲は深い森に囲まれていました。街灯はあるものの光が弱く、どこか薄暗い雰囲気が漂っていました。
車を停めると、みんな眠気眼のままトイレに向かいました。僕もついて行きましたが、なんとなく背中に嫌な視線を感じました。周囲を見回しても誰もいない。ただ風が木々を揺らす音だけが響いています。
トイレを済ませ、外に出ると、駐車場の端にぽつんと古い自動販売機が置かれているのに気づきました。なぜか気になり、近寄ってみると、やけに錆びついていて、どれだけ長い間放置されていたのか分からないような状態でした。それでも明かりは点いていて、商品も並んでいました。
「珍しいな」と思い、試しに缶コーヒーを買ってみました。ボタンを押すと、予想外にも機械がうなりを上げて動き出し、缶が出てきました。手に取ったとき、なんとなく缶が冷たい気がしました。冷たい缶コーヒーなんて珍しくないのですが、その夜は妙に気になったんです。
車に戻って缶をよく見ると、ラベルが見慣れないものでした。どことなく古臭く、賞味期限らしき部分を確認すると、なんと30年以上前の日付が印字されていたのです。
「これ、冗談だろ?」と友人たちに見せましたが、みんなも驚きつつ「気味悪いな」と言うだけで深く考えようとはしませんでした。僕自身も、眠気のせいで見間違えたのかもしれないと思い、特に気にせずその場を後にしました。
翌日、興味本位でそのパーキングエリアのことを調べてみたのですが、そこで別の事実に気づきました。どうやらそのエリアには「使われなくなった自販機が一台だけ残っている」という噂があるらしいのです。地元の人たちの間では、その自販機で買った飲み物を飲むと「過去に引き戻される」とか、「変な夢を見る」と言われているとか。
幸い、僕はその缶コーヒーを飲まずに捨ててしまいましたが、もしあの場で飲んでいたら……と思うと、いまだに不気味な気持ちがします。
あの夜、静岡のパーキングエリアで起きた出来事が何だったのか、真相は分かりません。でも、あの自販機は今もどこかで動き続けているのかもしれないと思うと、気軽に深夜のパーキングエリアを訪れるのは少し怖いですね。
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