あの日、大学時代の友人たちと久しぶりに集まった。居酒屋で一通り盛り上がった後、「もう一軒行こうか」と誰かが言い出して、自然とカラオケに向かうことになった。駅前のチェーン店に入り、6人で一番広い部屋に通された。壁際には低いテーブルとソファ、そして小さなモニターが壁に取り付けられている。特に変わったところはない、普通のカラオケルームだった。
最初のうちは何もおかしなことは起きなかった。定番の盛り上げソングで騒ぎ、懐メロを歌い、誰もが知っているバラードでしんみりとしたりして、気がつけば2時間が経っていた。
不思議なことが起きたのは、友人の一人が「ちょっと懐かしい曲入れてみるわ」と言ったときだった。彼が選んだのは、昭和の名曲だ。タイトルは聞き覚えがなかったが、歌い始めるとどこかで聞いたようなメロディが流れてきた。歌詞の一部を知っている気がして、みんなで口ずさむ。
その時、モニターに映し出された映像が少しおかしいことに気づいた。通常、カラオケの映像はどこかの街の風景や人物が写るものだが、そこに映っていたのは、古びた和室だった。茶色く変色した畳に、日焼けした障子。窓の外には強い風に揺れる竹林が見える。
「なんかすごい地味な映像だな」
そう言って笑う友人がいる一方で、私はその和室に奇妙な既視感を覚えた。見たことがあるような、ないような。でもその思いを口にするのは妙に気が引けた。
さらに歌が進むにつれて、映像が徐々に変わっていった。和室に誰かが現れたのだ。初めは後ろ姿だったが、徐々に振り向こうとしている。顔が見える直前、映像が突然止まった。
「なんだ、フリーズか?」
友人の一人がリモコンをいじるが、画面は真っ暗になったままだった。部屋の天井のスピーカーからは、かすかなノイズが漏れている。そのノイズの中から、かすかに声のようなものが聞こえた。
「……聞こえていますか……?」
誰も何も言えなかった。静まり返った部屋に、その声だけが響いているようだった。
その後、スタッフを呼んでみたが、彼らは「機械が一時的にエラーを起こしただけです」と簡単に説明して機材をリセットしてくれた。それで元通りになるはずだった。でも、なぜかその後、誰もその曲をもう一度入れることはなかったし、それ以降、あの映像のことも誰も触れなかった。
帰り道、一人だけ歩調が遅れていた私の耳に、ふと風の音が混じるようにして、あの声が再び聞こえた気がした。
「……次は、あなたの番です……」
それがただの思い違いであってほしいと願うばかりだ。
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