高校生の頃、通学に使っていた自転車は、父が昔乗っていた古い型のものだった。見た目はボロボロで、ペダルを漕ぐたびにギシギシと音が鳴るけれど、それなりに愛着があった。
ある日の放課後、いつものように駐輪場へ向かうと、自転車のハンドルが曲がっているのに気づいた。まるで誰かが力いっぱいひねったように不自然な角度だ。驚いて周囲を見渡したが、特に変わった様子はない。
「いたずらか何かかな?」
そう思いながら、無理やりハンドルを直そうとしたが、びくともしない。仕方なくそのまま乗ることにしたが、漕ぎ出してすぐに違和感を覚えた。ハンドルが妙に重いのだ。普段はスムーズな坂道も、妙な抵抗があって進みにくい。
家に帰って父に見てもらおうと思ったが、翌朝、さらに奇妙なことが起きた。
自転車のフレームが歪んでいた。まるで鉄そのものが溶けたように、ねじれた形になっている。特に目立つのはサドル付近で、まるでそこに何かが乗って強く押し込んだような跡があった。
「これじゃ乗れないな……」
さすがに怖くなり、学校まで歩いて行くことにした。しかし、道中、どうしても自転車のことが気になって仕方がなかった。家を出る時、自転車を庭に置いてきたはずなのに、なぜか背後からそのギシギシという音が聞こえてくるのだ。
振り返ると何もない。気のせいだと思い直して歩き始めると、再び音が近づいてくる。振り返るたびに音は止まり、周囲には何も見当たらない。
その日の放課後、自転車を処分することに決めた。父に相談すると、彼は難しい顔をしてこう言った。
「お前に言ってなかったが、その自転車、昔事故に遭った時のものなんだ。俺が乗ってた時に、子どもを巻き込みそうになってな……」
父が語るには、ある雨の日、その自転車で子どもを避けようとして激しく転倒したことがあったらしい。幸い大事には至らなかったものの、その事故以来、自転車は何かに呪われているようだと感じていたという。
「もう捨てよう。お前が使うべきじゃない」
翌朝、自転車を粗大ゴミ置き場に運び込んだ。これで終わりだと思った。しかしその夜、自宅の庭で「ギシギシ」という音が聞こえた。
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