踊る影

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あの夏の夜のことは、今でもはっきり覚えている。友人たちと遅くまで飲んでいた帰り道、僕は一人で家に帰ることになった。街外れの道は薄暗く、街灯がぽつぽつと点いているだけで、静かすぎるくらいだった。

普段は何も気にせず歩く道だったが、その夜はどうにも落ち着かなかった。風がやけに冷たく感じ、体にまとわりつくような湿った空気が不快だった。歩いていると、ふと自分の影がやけに大きく、そして長く伸びていることに気づいた。

街灯の下では、影は普通に伸びるはずだ。けれど、その影は何かがおかしかった。足元に沿って伸びるはずの影が、まるで自分の意思で動いているかのように、地面の上でゆっくりと揺れていたんだ。

「気のせいだ…」そう自分に言い聞かせて、足を速めた。しかし、影も同じように速く動く。まるで僕の動きに合わせて踊るように、影は奇妙に揺れ動いていた。

その瞬間、寒気が背中を走った。影が、ほんの一瞬だけ、僕の歩調を無視して勝手に動いたんだ。自分の動きとは全く関係なく、影が急に前へ跳ねるように揺れたかと思うと、次の瞬間には再び僕の足元に戻ってきた。

気味が悪くなり、僕は足をさらに速めた。家まではあと少しだ。しかし、その時、また影が勝手に動き始めた。今度は、影が僕を追い越すかのように前へと伸び、まるで影だけが先に走っているように見えた。

その影が、踊るように前へと進んでいくのを見て、もう耐えられなくなった。走り出したが、影はさらに前へと進む。まるで僕を引きずり込むように、道の上で踊るように揺れていた。

どれだけ走っても、影は追いつけない。先へ先へと進み、僕を先導するかのように、道の先へ消えていく。そして、ふと気づいた時には、影はもう視界から消えていた。

息を切らしながら立ち止まったが、周りは静まり返っていた。影も、街灯の明かりも、すべてが正常に戻っていた。だが、その瞬間、どこかで薄く笑い声が聞こえた気がした。まるで、僕をからかっているかのように。

家に着いた時、体中が冷え切っていた。シャワーを浴びても、あの踊る影の感覚が頭から離れなかった。それ以来、夜道を一人で歩くのがどうにも怖くなった。あの影が、また僕の前に現れて踊り始めるのではないかと思うと、今でも足がすくんでしまう。

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