正座している子供

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数年前のことだ。僕は仕事の疲れが溜まり、週末に実家に帰ることにした。両親は旅行で不在だったので、一人で静かに過ごせるのが嬉しかった。実家は古い和風の家で、僕が子供の頃から住んでいた場所だ。特に和室が好きで、畳の上でゆっくりできるのが心地よかった。

その夜、夕食を簡単に済ませた後、和室で横になりながら昔の思い出にふけっていた。部屋には僕一人だけだったはずだ。けれど、なぜか背後に誰かの視線を感じたんだ。

気のせいかと思い、もう一度部屋を見回した。薄暗い照明の中で、何かが動いたように見えた。畳の上、部屋の隅っこに、小さな人影がいた。

それは、正座をしている子供だった。白い着物を着て、膝をきちんと揃えて、まるで作法を守るかのように正座していた。何よりも奇妙だったのは、その子供がじっと僕を見つめていることだ。

一瞬、誰かが家に入り込んだのかと思ったが、よく見るとその子供の姿は異様だった。顔はぼんやりしていて、まるでそこに「ない」ように感じられた。何かが違う。現実の存在ではないのかもしれない、という感覚が次第に恐怖へと変わっていった。

「誰だ…?」と思わず声をかけたが、その子供は何も言わない。ただ、じっと僕を見つめたまま微動だにしなかった。正座したまま、その目だけが異常に黒く、深い闇のように見えた。

僕は怖くなり、体を動かそうとしたが、まるで体が石のように重くなってしまった。視線を逸らしたくても逸らせない。目の前の子供が、少しずつ僕の方に近づいてくるように見えた。正座したまま、畳の上を滑るようにして…。

その時、急に家の外で風が強く吹き荒れる音がした。部屋の窓がガタガタと鳴り、その音に気を取られて一瞬視線を逸らした。次の瞬間、子供の姿は消えていた。

慌てて部屋の中を見回したが、どこにもその子供の影は見当たらなかった。まるで最初から存在していなかったかのように。しかし、畳の上には小さな正座の跡がくっきりと残っていたんだ。

あれは一体何だったのか、今でも分からない。でも、それ以来、実家に帰るたびに和室で過ごすのが少し怖くなってしまった。あの子供がまた現れるのではないか、と思うと、気が休まらないんだ。

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