あれは、小学校四年生の頃のことだったと思う。あまり人に話したことはないけど、今でもその時の情景が鮮明に頭に残っている。
その日は普通の平日で、いつものように授業が終わり、待ちに待った休み時間がやってきた。教室の外では子供たちの笑い声や走り回る音が響いていたけれど、俺は何だかその日、気分が乗らなかったんだ。理由はよく覚えてないんだけど、なんとなく机に座っていた。いつもなら、友達と一緒に外に遊びに行くんだけど、その日はぼんやりと窓の外を見つめていた。
その時、ふと後ろの席で誰かが泣いている声が聞こえたんだ。振り返ると、クラスメイトのA君が机に突っ伏して、ぐしゃぐしゃに泣いていた。彼とはそんなに親しいわけじゃなかったけど、彼が泣いている姿はあまりにも衝撃的で、思わず声をかけたんだ。「どうしたの?」ってね。
すると、A君は顔を上げずに、ぽつりとこう言った。「ごめん、俺…ぐしゃぐしゃにしちゃったんだ…」
その時は何のことを言っているのかさっぱりわからなかった。でも、その言葉を聞いた瞬間、何故か全身に冷たいものが走ったんだ。何かがただごとじゃないことを直感したというか、胸の奥がざわざわしたんだよね。
俺はA君に「何をぐしゃぐしゃにしたの?」と聞き返した。けれど、彼はそれには答えず、ただ涙を流し続けていた。教室の中は妙に静かで、外のざわめきが遠く感じられた。
その時、教師が入ってきて、A君のところへ駆け寄った。彼を抱き起こすようにして、廊下へ連れ出したんだ。俺も何だか気になって、その後を追いかけたんだけど、廊下でA君がぽつりと漏らした言葉が耳に入ってきた。
「ごめんなさい…俺、休み時間にあれをぐしゃぐしゃにしちゃったんだ…」
それからしばらく、A君は学校に来なくなった。何があったのか、誰も教えてくれなかったし、先生もそれに触れないままだった。でも、俺は知っているんだ。
あの日、休み時間にA君が何かを「ぐしゃぐしゃ」にしてしまった。その「何か」が何だったのか、誰も言おうとはしないけれど、俺の記憶には、あの泣き顔と、その言葉がいつまでも刻まれている。
それ以来、休み時間の度に、ふとあの時の教室の静けさが蘇ってくるんだ。何が「ぐしゃぐしゃ」にされたのか、今でもわからないけれど、時折、窓の外を見つめていると、背筋に冷たいものが走るんだよ。
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